天妃物語〜本編後番外編・帰ってきた天妃が天帝に愛されすぎだと後宮の下女の噂話がはかどりすぎる〜
「萌黄、今日はお休みなんですよね?」
「うん。ようやく仕事が落ち着いたから今日はお休みをいただいたの」
「それは良かったです。では今日は気分転換に出かけませんか? 久しぶりに伊勢の御山で遊びましょう」
「えっ、今から?」
「そうです。よい息抜きになると思うのですよ」
「そうかもしれないけど……」
萌黄は困惑した。
外へ遊びに行こうと提案されたが萌黄は斎王なのである。立場上、自由気ままに外を出歩くことはできない。
そんな萌黄の困惑に気づいた鶯が「ふふふ」と含み笑う。
「萌黄、おかしいと思いませんか?」
「え?」
「こんなに賑やかにしているのに誰も様子を見に来ていません。おかしいと思いませんか?」
「あっ!」
萌黄はハッとした。
鶯の言う通りなのだ。斎王の居室は武装した巫女に警備されているのに、こんなに騒がしくしていても誰も確認しにこない。こんなことはあり得ないことだった。
「もしかして、鶯が?」
「はい、ちょっとした呪いを仕掛けました。少しくらいここを離れても誰も気づきませんよ」
そう言って鶯がにこりっと微笑む。
いたずらっぽいその笑みに萌黄は目を丸めて、でもすぐに興奮して返事をする。
「それなら行く! 行きたい! ああっ、自由に外に行けるなんて夢見たい!」
「はい、連れてってあげます。あなたと山を歩くなんて何年振りでしょうね」
鶯も嬉しそうに言った。
萌黄が斎王になってからは双子の姉妹でもおいそれと一緒に出掛けられなくなったのだ。
「では行きましょうか。紫紺、青藍、あなた達に私の育った山を見せてあげますね」
そう言って鶯は青藍を抱っこする。
帯紐でおんぶしようとしたが、それは黒緋が制止した。
「鶯、青藍は俺が連れていく。青藍を抱いて山を歩くのは大変だろう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
鶯は安心したように黒緋に青藍を渡す。
赤ちゃんを抱っこして山道を歩くのは大変なのでありがたい申し出だった。
「あぶぶっ、あ〜!」
「こら、暴れるな。お前は俺が連れていく」
暴れだした青藍を黒緋が抱っこで食い止める。
大好きな鶯から離されて青藍は不満なのだ。
「あうあ、ばぶっ」
「心配するな、鶯と一緒のところに行くんだ」
「あう?」
鶯の名に青藍の動きがぴたりと止まった。
「そうだ、いい子にしてろ。鶯だけが行くわけじゃない」
「そうだぞ、せいらん! オレたちもいっしょのとこいくんだ!」
「あいっ!」
青藍は頷くと黒緋の抱っこにおとなしく収まった。納得したようである。
こうして五人は伊勢の山を散策することになったのだった。
「うん。ようやく仕事が落ち着いたから今日はお休みをいただいたの」
「それは良かったです。では今日は気分転換に出かけませんか? 久しぶりに伊勢の御山で遊びましょう」
「えっ、今から?」
「そうです。よい息抜きになると思うのですよ」
「そうかもしれないけど……」
萌黄は困惑した。
外へ遊びに行こうと提案されたが萌黄は斎王なのである。立場上、自由気ままに外を出歩くことはできない。
そんな萌黄の困惑に気づいた鶯が「ふふふ」と含み笑う。
「萌黄、おかしいと思いませんか?」
「え?」
「こんなに賑やかにしているのに誰も様子を見に来ていません。おかしいと思いませんか?」
「あっ!」
萌黄はハッとした。
鶯の言う通りなのだ。斎王の居室は武装した巫女に警備されているのに、こんなに騒がしくしていても誰も確認しにこない。こんなことはあり得ないことだった。
「もしかして、鶯が?」
「はい、ちょっとした呪いを仕掛けました。少しくらいここを離れても誰も気づきませんよ」
そう言って鶯がにこりっと微笑む。
いたずらっぽいその笑みに萌黄は目を丸めて、でもすぐに興奮して返事をする。
「それなら行く! 行きたい! ああっ、自由に外に行けるなんて夢見たい!」
「はい、連れてってあげます。あなたと山を歩くなんて何年振りでしょうね」
鶯も嬉しそうに言った。
萌黄が斎王になってからは双子の姉妹でもおいそれと一緒に出掛けられなくなったのだ。
「では行きましょうか。紫紺、青藍、あなた達に私の育った山を見せてあげますね」
そう言って鶯は青藍を抱っこする。
帯紐でおんぶしようとしたが、それは黒緋が制止した。
「鶯、青藍は俺が連れていく。青藍を抱いて山を歩くのは大変だろう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
鶯は安心したように黒緋に青藍を渡す。
赤ちゃんを抱っこして山道を歩くのは大変なのでありがたい申し出だった。
「あぶぶっ、あ〜!」
「こら、暴れるな。お前は俺が連れていく」
暴れだした青藍を黒緋が抱っこで食い止める。
大好きな鶯から離されて青藍は不満なのだ。
「あうあ、ばぶっ」
「心配するな、鶯と一緒のところに行くんだ」
「あう?」
鶯の名に青藍の動きがぴたりと止まった。
「そうだ、いい子にしてろ。鶯だけが行くわけじゃない」
「そうだぞ、せいらん! オレたちもいっしょのとこいくんだ!」
「あいっ!」
青藍は頷くと黒緋の抱っこにおとなしく収まった。納得したようである。
こうして五人は伊勢の山を散策することになったのだった。