天妃物語〜本編後番外編・帰ってきた天妃が天帝に愛されすぎだと後宮の下女の噂話がはかどりすぎる〜
「ごめんなさい、萌黄。紙を手形だらけにしてしまいました」
「気にしないで、なにも書いてない紙だし」
白紙の紙一面に青藍の小さな手形跡。しかも途中で指吸いもしたのか小さな口の周りにも墨がついている。
「青藍、こちらを向いてください。拭いてあげます」
「ばぶぅっ」
「なに怒った声だしてるんですか。あなた墨まみれなんですよ? あ、動かないで。だめですっ」
青藍が墨だらけの手を振り回す。
鶯がなかなか上手く拭けずにいると、黒緋が青藍をひょいっと抱いた。そして鶯の前にずいっと差し出される。
「押さえておく。今のうちだ」
「ありがとうございます!」
鶯は素早く青藍の顔や手を拭いていく。
黒緋の大きな両手が青藍の両腕ごとがっしり捕まえているのだ。
しかし身動きをとれなくされた青藍は大激怒である。プンプンで黒緋になにやら訴えている。
「あう〜! あーあー! ばぶぶっ、あー!」
「……めちゃくちゃ怒ってるな」
「あともう少しそのままお願いします。あと少しで綺麗になりますから」
「あうー! ばぶっ。…………うっ、ううっ、う……」
「今度は泣きだしたぞ」
「これはもう自分でどうにもできなくて、泣くしかないと思ったようです」
「うっ、うっ」
青藍は一人泣き崩れていたが、鶯と黒緋にとっては絶好の機会である。拭くなら今のうち。
こうして鶯と黒緋は手早く青藍を拭いていたが、ここに子どもはもう一人いるのである。
「あ、このかみなんかかいてある。えっと、うぐいすへ。きょうはあさからうぐいすのことばかりかんがえていました。あさつゆにぬれるはながうぐいすにみえて」
「わっ、わああああ! 紫紺様、紫紺様それだけはお許しください!」
朗読を始めた紫紺を萌黄が慌てて止めた。
しかし紫紺は誇らしげである。
「オレ、てならいしてるから、ちゃんとよめるんだ。えらい?」
「えらいですっ。えらいですから、それだけはっ……!」
「これなに? うぐいすって、ははうえのこと?」
「あああ、ご勘弁をっ。どうか!」
「ええ〜、オレもっとよみたい!」
「ああお許しをっ……!」
萌黄は衣装の長い裾を引きずって紫紺を追いかける。
そう、それは萌黄がせっせと書いていた文だ。
鶯宛に書きながら、決して鶯に読んでもらえることはないと諦めていた時の文である。今生の別れをしたと思っていたため、黄昏の気分で本人には直接言えないような恥ずかしいことも書いてあった。まるで夜にしたためた陶酔気味の詩歌なのである。
しかし鶯はあっさり天上から会いに来てくれたので、これはもうただの恥ずかしい文だ。
萌黄はなんとか紫紺から文を奪取しようと焦るが、その前に。
「紫紺、その文は私宛のようです。私のところへ」
「うん、ははうえ!」
素直である。
紫紺は母上の鶯が大好きなのだ。
「気にしないで、なにも書いてない紙だし」
白紙の紙一面に青藍の小さな手形跡。しかも途中で指吸いもしたのか小さな口の周りにも墨がついている。
「青藍、こちらを向いてください。拭いてあげます」
「ばぶぅっ」
「なに怒った声だしてるんですか。あなた墨まみれなんですよ? あ、動かないで。だめですっ」
青藍が墨だらけの手を振り回す。
鶯がなかなか上手く拭けずにいると、黒緋が青藍をひょいっと抱いた。そして鶯の前にずいっと差し出される。
「押さえておく。今のうちだ」
「ありがとうございます!」
鶯は素早く青藍の顔や手を拭いていく。
黒緋の大きな両手が青藍の両腕ごとがっしり捕まえているのだ。
しかし身動きをとれなくされた青藍は大激怒である。プンプンで黒緋になにやら訴えている。
「あう〜! あーあー! ばぶぶっ、あー!」
「……めちゃくちゃ怒ってるな」
「あともう少しそのままお願いします。あと少しで綺麗になりますから」
「あうー! ばぶっ。…………うっ、ううっ、う……」
「今度は泣きだしたぞ」
「これはもう自分でどうにもできなくて、泣くしかないと思ったようです」
「うっ、うっ」
青藍は一人泣き崩れていたが、鶯と黒緋にとっては絶好の機会である。拭くなら今のうち。
こうして鶯と黒緋は手早く青藍を拭いていたが、ここに子どもはもう一人いるのである。
「あ、このかみなんかかいてある。えっと、うぐいすへ。きょうはあさからうぐいすのことばかりかんがえていました。あさつゆにぬれるはながうぐいすにみえて」
「わっ、わああああ! 紫紺様、紫紺様それだけはお許しください!」
朗読を始めた紫紺を萌黄が慌てて止めた。
しかし紫紺は誇らしげである。
「オレ、てならいしてるから、ちゃんとよめるんだ。えらい?」
「えらいですっ。えらいですから、それだけはっ……!」
「これなに? うぐいすって、ははうえのこと?」
「あああ、ご勘弁をっ。どうか!」
「ええ〜、オレもっとよみたい!」
「ああお許しをっ……!」
萌黄は衣装の長い裾を引きずって紫紺を追いかける。
そう、それは萌黄がせっせと書いていた文だ。
鶯宛に書きながら、決して鶯に読んでもらえることはないと諦めていた時の文である。今生の別れをしたと思っていたため、黄昏の気分で本人には直接言えないような恥ずかしいことも書いてあった。まるで夜にしたためた陶酔気味の詩歌なのである。
しかし鶯はあっさり天上から会いに来てくれたので、これはもうただの恥ずかしい文だ。
萌黄はなんとか紫紺から文を奪取しようと焦るが、その前に。
「紫紺、その文は私宛のようです。私のところへ」
「うん、ははうえ!」
素直である。
紫紺は母上の鶯が大好きなのだ。