溺愛オオカミくんは私の歌が大好物
第2話

〇秘密の丘

◇放課後



瀬奈「今日もいる……」



木の影から公園を覗いてみると今日もあの不良は来ていた。



あれから1週間、毎日私の秘密の場所に彼は訪れている。



最初は恥ずかしさのあまり、鼻歌を歌ったり、小さい声でしか歌えなかったけど、当たり前のように居る彼の押しの強さに負けたのだ。





瀬奈「あの……いつまで来るんですか?」



?「さぁ?ずっと居るんじゃないか?」



瀬奈「ずっとって……」



せっかく1人になれるいい場所なのに。



?「だってあんたの歌、聞いてると落ち着くから好きだ」




ドキッ!





瀬奈「あっ、あの言葉が、そのちょっ……直球すぎると言うか」



?「うん?」



瀬奈「そんなにド直球で褒められると、恥ずかしいんでやめてください!」



?「あ?思ったことを伝えて何が悪い。言葉は伝えるためにあんだろうが。それとも褒められるのが嫌なのか?」



瀬奈「いや、嫌じゃないですけど……そういう事じゃなくて……」




自覚なしだ。この人にとって自分の思いを素直に伝えることは、当たり前なんだ。



だけど、言われてるこっち側は、恥ずかしくてたまったもんじゃない。



――数分後




〜♪



歌を歌い終わったのと同時に夕焼けチャイムが響き始めた。



?「じゃあ、また明日な」



ブランコから立ち上がり、いつものように明日の約束を勝手に取り付けて帰ろうとする。



よし、今日こそは……。




瀬奈「あの私も毎日来るわけではないんですけど」



?「あ?明日は来ねぇのか?」



瀬奈「まぁ、そうですね。気分にもよりますけど」



?「じゃあ今度はいつ来るんだ?」



うっ……来る前提か。




瀬奈「いつでしょう……」



?「今ここで決めろ。あんたの歌、楽しみにしてるんだから」




またド直球に!!



瀬奈「え、えっーと……」



?「…………」



どうしよう。私の計画では来れないって嘘をつき続けて密かに1人で歌を歌う予定だったのに……。



なのに次の予定を聞かれるなんて。



チラッ




?「…………」




うっ……ただでさえお顔が整っているのに、そんなに見つめられると正直……見つめないでください。



?「…………」



瀬奈「明後日……とか?」



?「じゃあ明後日、また来る」



あぁ……なんでこうも私は押しに弱いんだ。





――――カラオケ店


仁奈・紗知「「今日はよろしくお願いしま〜す!」」


瀬奈「お……お願いしま……す……」



いつもなら家に帰っている時間なのだが私は今カラオケという、お化け屋敷よりも怖い場所へと来ている。



そしてカラオケボックスに入った瞬間、知らない男達が3人座って待っていた。



最初は部屋を間違えたのかな?って思ったけどここで合ってるらしい。



男1「こちらこそよろしくね〜。3人とも可愛いね!」


普通のカラオケと明らかに何かが違う気がする。





瀬奈「ねぇ……今日は3人でカラオケなんじゃなかったの?(ボソッ)」




仁奈「言わなかったっけ?今日はカラオケという名の合コンって」




言ってないよ……。




ただ放課後カラオケで遊ぶだけだろうなんて考えていたのにまさかこんなことになるとは――







〇(回想)紗知と仁奈と教室で話してる時




仁奈「あっ今日瀬奈って放課後暇?」


またか……。


瀬奈「……なんで?」


紗知「今度こそ3人でカラオケ行こうよ!」



最悪だ……私が最も苦手とする人前で歌を歌う行為。




まだ彼の前でしか歌うことが出来ない。



そしてカラオケという一人で行くのにも勇気がいる場所に、そんなに仲良くない人と行くのは拷問に近い。



瀬奈「あーごめん。ちょっと用事があって」




仁奈「えー前もそう言ってたじゃん。パス出来ないの?」





瀬奈「いや……パスは……」




紗知「えーいつもパス出来ないって言うじゃん」




仁奈「確かに……瀬奈って誘っても用事があるって断るよね」
「もしかして私らと遊ぶの嫌?」




明らかに空気が悪くなってきた。




さすがにこの言い訳も通用しなくなってきたか。


瀬奈「なんとか……してみる……」


紗知「ほんと!?やったぁ!!」


さっきの暗い空気が一瞬で消えた。



あの頃のように皆から嫌われるよりマシか。



歌うことさえ回避出来ればいいんだから。



そんな呑気なことを考えていたが、来てみればカラオケから合コンへと変わっていたのだ。



〇回想終わり
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