溺愛オオカミくんは私の歌が大好物
第4話

瀬奈「なんで……」


なぜ助けてくれたんだろう。雰囲気的に助けてくれるよう人ではなさそうなのに。



瀬奈「お前の歌を聞けなくなるのが嫌だからな」



瀬奈「……そんなに良かったですか?」



?「あぁ、好きだ」



ドキュン――



歌が好きなんであって、私のことを好きと言ったわけではないけど……彼の「好き」は威力が強すぎる!!




聖也「お前らなに暢気に話してるんだよ。銀髪も邪魔するなよ。今から瀬奈ちゃんと用事があるんだから」


瀬奈「私は行くって言ってません」


?「ほら、瀬奈もこう言ってんだ。早くその手を離せ」


聖也「はぁ……なんか興醒めなんだけど。何そんなに必死になってんの?元々こんなブス本気じゃねぇよ。こっちから願い下げだわ」



ブッ、ブス!?



聖也「あぁ〜今日ハズレかよ。時間無駄にしたわ」


そのままひっきりなしに文句を言いながら、街中へと去っていた。



?「腕、痛めてないか?」


瀬奈「大丈夫です。助けてくれてありがとうございました」



?「そんなに腕が腫れてるのにか?」


瀬奈「え?……痛っ」


狼さんにさっき掴まれていた所を触られて、初めて自分の腕が青く腫れていることに気付いた。


?「手当するぞ。着いてこい」


瀬奈「どこにですか?」


?「行けば分かる。それとも担いで連れていかれたいか?」


瀬奈「すぐ行きましょう。向かう場所はどこですか」



?「……こっちの裏道だ」



変なやつと言わんばかりの視線私にを送りながら、半分脅されて?私は狼さんについて行ったのだった。



カランカラン――


着いた場所は二階建てのレトロなカフェ。そして上の階にある一室へと案内された。


?「ここに座ってろ、救急箱取ってくる」


部屋で取り残された私は、あたりを見渡す。


シンプルな部屋だな……無駄なものがない。


ガチャ――


?「…………」


瀬奈「…………」


ガサガサ――


手際よく道具を出しす狼さん。


?「腕出せ」



瀬奈「はい……痛っ……!」



少し触られただけで痛みが生じる。


?「手当して正解だったな。痛いだろうが、我慢しろ」



瀬奈「頑張ります」




ちなみに痛いの苦手なんです……。




心の中でシクシクと泣きながら手当されるのをじっと待つ。




それにしても慣れた手つきだな……。



?「なんでこんな時間にあそこに居たんだ?」



瀬奈「今日友達にカラオケ行こうって誘われてたんですけど騙されて合コンだったんです」



?「そりゃ災難だな」



自分から聞いてきたのにすごい興味無さそう。



?「帰ればよかっただろ」


瀬奈「私が帰ってその場の空気を悪くしたくなかったんです」



?「空気を悪く?」



瀬奈「はい。それに友達にハブられたくないので」



?「……人って誰しも窮屈な生き物だな」



窮屈?




?「出来たぞ」



瀬奈「ありがとうございます」



綺麗に巻かれた包帯。



手先が器用なんだ。



丁寧に使った道具を片付け始める岳を眺めながら気になっていたことを質問する。



瀬奈「ここってカフェですよね?ここで働いてるとかですか?」




?「いや、ここに住んでるだけだ。たまに人手不足の時に借り出されるがな」




瀬奈「へー、さっきチラッと店内を見ましたけどレトロな感じの落ち着くカフェですね。今度コーヒー飲みに来ます」




?「夕方からはBARに変わるから。それに平日はガラの悪いヤツらが結構来るから、来るんだったら休日の午前中がいいぞ」



さっきから思っていたんだけど、面倒見のいい人だな。顔のイケメンさといいこりゃあかなりモテそうだ。


?「人の顔をそんなに見るな。穴が開く」



瀬奈「あっ、すみません」


恥ずかしい。


?「よし、終わったぞ」


瀬奈「狼さんって器用なんですね」


慣れた手つきで治療してくれたなぁ。




?「おい、狼さんって俺のことか?」




あっ……本人に言ってしまった。




瀬奈「いやー、銀髪に赤い目なので狼さんに見えてですね……別に悪気があって言ってるわけでは……名前も知らないですし」


チラッと狼さんの顔を見てみると、ジーッっとした目で睨まれていた。


瀬奈「すみません。もう呼びませんので名前教えてください」


額を床につけ、いわゆる土下座スタイルで謝った。


?「ハァ……別に怒ってるわけじゃねぇから、土下座はやめろ」





瀬奈「はい……」




?「がく」




瀬奈「ガク?」




岳「名前……岳だ、覚えとけ。あんたの名前は?」




瀬奈「瀬奈です。よろしくお願いします」




岳「瀬奈か……綺麗な名前だな」





瀬奈「なっ!!」




綺麗だなんて名前を褒められただけだけど、誰かに直接言われたことがないから恥ずかしい。




岳「顔赤いぞ。大丈夫か?」




あなたのせいですが?




岳「熱も出てきたか?」





瀬奈「いや、これは熱とかではなくて……っっ!」




つっめたい!!




何も言わず急に岳さんの冷たい手が私の額に置かれ冷やしていく。



岳「…………」



瀬奈「…………」



初めて会った時も思ったけど、至近距離で見ると改めて思う。



綺麗な顔だな……。



サラサラな銀髪、長いまつ毛、スッとした鼻筋、奇麗な唇。この世にこんなに綺麗な人がいるのだろうかと疑いたくなる。



そして顔がいいからこの距離だとものすごく恥ずかしい。




岳「なんかどんどん熱くなってる……やっぱり病院に行くか」


瀬奈「いやいやいや!ほんとーーに大丈夫なので!!」



岳「でも……」




瀬奈「いやーほんと今日は何から何までありがとうございます。なにかお礼を……」




話を逸らすのが賢明だ。



岳「…………」


やばいイケメンの睨みほど怖いものは無い。



岳「ハァ……」
「じゃあ助けたお礼で、毎日歌を聞かせろ」




瀬奈「え?!」




岳「いいだろ?それにお前用事があるって言ってたが、本当は用事なんてないだろ」



ギクッ――




バレてる!





瀬奈「あの、嘘をついたのは謝ります。ごめんなさい。けど、私本当に人前で歌うのが苦手で……」




岳「瀬奈の歌を聞くと、その日よく寝れんだよ。それに綺麗な声だったから聞きたい」




そんなにストレートに言われると、断りにくい。



私が押しに弱いのをこの人は分かっているんだ。


そしてやっぱり私は――



瀬奈「用事がある日は無理ですけど……極力頑張ります」



岳「ああ、それでもいい」



押しに負けてしまうのだ。トホホ……。



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