愛を語るより…
この、独特な糖度の高い雰囲気に、私はすっかり心を開いてしまい、彼の手のひらの上で転がされているようだった。


大体、この人がこんなちんちくりんな私を好きだなんて、都合の良い夢以外の何物でもないだろう。



「今夜は離すつもり、ないから。覚悟してて?」

「?!」


私の手をしっかりと握ったままで、器用に運転をスタートさせる彼。
そんな彼の横顔を見つめて、じわりと赤くなる頬を隠す為に俯くと、くすくすと軽快に笑った彼は、


「香帆ちゃんは、本当に何処も彼処も可愛いな」


なんて言うのだった。


「かっ、揶揄わないで下さいっ」


そう抗議するも、ちらりと此方に向けられた視線は、紳士の奥にチリチリと宿っている今まで見たことのない彼の欲を孕んでいて…私はぐっと息を飲み込んだ。


そんな彼からの熱視線に耐えられるわけもなく、私は街頭のランプが次々と流れて行く車窓へと視線を向けた。

鮮やかな色とりどりのネオンの中を、走っていく車内はカーステレオの光りがほんのりと灯って、其処に流れてくる名も知れない洋楽が掛かるその大人っぽい雰囲気飲まれそうになって、私は心地良いシートに身を沈めてから、彼に気付かれないように小さく溜息を吐く。


柔らかなオレンジ色の街灯と、その先にある青や薄紫や、少し滲んだ赤色の混ざったネオン。

それら全てが、私の五感を擽っていく。
何処に向かっているのかは、まだ彼の口から聞けていないけれど、きっと私が驚くくらいの夜景を見せてくれるのだろう。

ほろほろと溶け出すような星は、幾つもぶつかり合い、サイドミラーに映る自分の瞳にキラリと輝いていた。

それは、ちらりと盗み見た彼の瞳にも映り込んでいて、なんとなくホッと安堵する。


あぁ…私だけが「ココ」に取り残されているんじゃないんだと。
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