愛を語るより…
狭い車内に、二人きりでずっといて、そこに言葉というコミュニケーションがなくなる空気感は、なんとなく見を捩りたくなるようなむず痒さが起こるのに、どうしてか彼とのこの時間は今まで感じたことのない幸福感で満たされていた。


これが、本物の"好き"と言うことなのかな…。
なんて考えていたら彼の手がまた私の手をするりと撫でてきた。


「もしかして…余裕ある?」

「…へ…?」

「俺がココにいるのに、別の事考えてそうだったから」

「っ、そんなこと…ただ…」

「ただ?」

「その…えと…蒼さん、が好きだなぁっ、て…っ」


そう言い終わらないまま、突然に口唇の端に落ちてきたキス。
驚いて彼を見ると楽しそうな顔をして、車をまた発車させる。


あ、赤が青に変わったんだ。

そんな些細なことにも気付かないくらい、彼のことを考えていたのかと思ったら、本当に恥ずかしくて仕方なかった。


きっと、というか絶対に恋愛偏差値も何もかも、彼の方が上で、そんな中で私は出逢ってからずっと彼の手中で雁字搦めになっているのだと、改めて知る。


狡いなぁ、と思う。
こんなにも、好きだと思うのに、彼はいとも簡単に私の気持ちの上を越えてしまうのだから。


さっきのキスもそうだ。
ほんの僅かな温もりなのに、慈しむ熱が感染ってきて、じわじわと胸を掻き乱される。

こんな風に少しずつ少しずつ孕んで侵食されていく、恋愛なんて私は知らない。


だから、知りたいと思うのだ。
そう…答えが欲しいのだ。


このまま、彼に身を委ねた自分が一体如何なってしまうのかと…。

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