お菓子に釣られたシンデレラ 王女様の命令で私が王太子様と恋愛結婚!?
1 美しきお姫様の(悪)企み
「ほら、アナベル、口を開けて?」
「んん! お、おいしいです……!」
口の中でとろける甘いお菓子。
初めての食感に感動して、つい目を輝かせてしまった。すると、彼は嬉しそうに甘く微笑む。
「こっちも美味しいよ。ほら、あーん」
目の前の見目麗しい御方が、その長く綺麗な指先で、とっても美味しそうなお菓子を摘む。今度は銀砂糖が飾られた丸いショコラだ。
自然な流れで私の口に押し当ててくるので、抵抗出来ず口を開いてしまう。
「んむ! 甘いですっ♡」
私は淑女としては落第点であろう大きなお口で、入れられるがままお菓子を食していた。美味しいお菓子が目の前に差し出されて、どうして拒否出来ようか!
つまり私は今、この絵画のように完璧で美しい御方、王太子殿下に、恐れ多くも餌付けされているのである。
漆黒の闇夜のような艶やかな黒髪と、王族であることを示す真紅の瞳。この御方は紛うことなき王太子殿下だが、随分聞いていた話と違う。
冷静沈着で無慈悲な『氷の王太子殿下』と呼ばれているはずのこの方は、目の前で愉快そうに私を餌付けしているのだ。王宮で誰も笑った顔を見たことがないと噂されていたはずなのに、私にお菓子を食べさせて満足そうに微笑んでいる。
どうして、何故こうなった!?
***
時は少し遡る──。
『春の国』と呼ばれるウィンベリー王国。我が国はその名の通り気候が穏やかで、土壌が豊かな国であり、様々な花が咲く美しい国だ。大陸にある四つの国家の中で、最も過ごしやすく、最も華やかで広大な領土を持つ。
そんなウィンベリー王国の王都には、大きな王宮がそびえたっている。王宮の敷地も大変広く、王族それぞれに離宮が与えられ、多くの従者や侍女が働いていた。
私、アナベル・リントンも、その一人。現在は第一王女殿下の侍女として毎日仕事に励んでいる。
今日は、王女殿下の私的なお茶会の日。王宮の奥にひっそりと広がる王族専用の庭園で開かれる。色とりどりの薔薇が咲き誇るローズガーデンは、王妃殿下や王女殿下の住まう離宮の側に位置し、彼女達がお茶会を開く際に使用される。
柔らかな陽光が差し、吹く風も暖かくなってきた今、薔薇が満開を迎え、絶好のお茶会日和である。
(美味しそう……!!)
甘いもの好きな私は、侍女として働きながらも素敵なスイーツに目を輝かせていた。
キラキラとベリーが眩しいケーキ、小さなオレンジ色のゼリー、スコーンにクッキー!
ローズガーデンの中心に位置する四阿のテーブルに、王宮シェフ自慢のスイーツが並ぶ。そのカラフルな色合いは、周りの薔薇にも負けていない。年若い乙女としてはトキメキが止まらないラインナップだ。
王女殿下の為に出されたお菓子だ。見た目が美しいだけではなく、絶対に美味しいはず。どんな味かしら。ああ、食べたい……。
しかし私は侍女。食べたい気持ちは押し込めて仕事に徹する。……でもちょっと食べてみたい。お腹が鳴りそう。いえいえ、我慢我慢!
私は優秀な侍女なので、そんな葛藤を顔には出さない。この日も完璧に給仕に徹していた。
「んん! お、おいしいです……!」
口の中でとろける甘いお菓子。
初めての食感に感動して、つい目を輝かせてしまった。すると、彼は嬉しそうに甘く微笑む。
「こっちも美味しいよ。ほら、あーん」
目の前の見目麗しい御方が、その長く綺麗な指先で、とっても美味しそうなお菓子を摘む。今度は銀砂糖が飾られた丸いショコラだ。
自然な流れで私の口に押し当ててくるので、抵抗出来ず口を開いてしまう。
「んむ! 甘いですっ♡」
私は淑女としては落第点であろう大きなお口で、入れられるがままお菓子を食していた。美味しいお菓子が目の前に差し出されて、どうして拒否出来ようか!
つまり私は今、この絵画のように完璧で美しい御方、王太子殿下に、恐れ多くも餌付けされているのである。
漆黒の闇夜のような艶やかな黒髪と、王族であることを示す真紅の瞳。この御方は紛うことなき王太子殿下だが、随分聞いていた話と違う。
冷静沈着で無慈悲な『氷の王太子殿下』と呼ばれているはずのこの方は、目の前で愉快そうに私を餌付けしているのだ。王宮で誰も笑った顔を見たことがないと噂されていたはずなのに、私にお菓子を食べさせて満足そうに微笑んでいる。
どうして、何故こうなった!?
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時は少し遡る──。
『春の国』と呼ばれるウィンベリー王国。我が国はその名の通り気候が穏やかで、土壌が豊かな国であり、様々な花が咲く美しい国だ。大陸にある四つの国家の中で、最も過ごしやすく、最も華やかで広大な領土を持つ。
そんなウィンベリー王国の王都には、大きな王宮がそびえたっている。王宮の敷地も大変広く、王族それぞれに離宮が与えられ、多くの従者や侍女が働いていた。
私、アナベル・リントンも、その一人。現在は第一王女殿下の侍女として毎日仕事に励んでいる。
今日は、王女殿下の私的なお茶会の日。王宮の奥にひっそりと広がる王族専用の庭園で開かれる。色とりどりの薔薇が咲き誇るローズガーデンは、王妃殿下や王女殿下の住まう離宮の側に位置し、彼女達がお茶会を開く際に使用される。
柔らかな陽光が差し、吹く風も暖かくなってきた今、薔薇が満開を迎え、絶好のお茶会日和である。
(美味しそう……!!)
甘いもの好きな私は、侍女として働きながらも素敵なスイーツに目を輝かせていた。
キラキラとベリーが眩しいケーキ、小さなオレンジ色のゼリー、スコーンにクッキー!
ローズガーデンの中心に位置する四阿のテーブルに、王宮シェフ自慢のスイーツが並ぶ。そのカラフルな色合いは、周りの薔薇にも負けていない。年若い乙女としてはトキメキが止まらないラインナップだ。
王女殿下の為に出されたお菓子だ。見た目が美しいだけではなく、絶対に美味しいはず。どんな味かしら。ああ、食べたい……。
しかし私は侍女。食べたい気持ちは押し込めて仕事に徹する。……でもちょっと食べてみたい。お腹が鳴りそう。いえいえ、我慢我慢!
私は優秀な侍女なので、そんな葛藤を顔には出さない。この日も完璧に給仕に徹していた。
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