お菓子に釣られたシンデレラ 王女様の命令で私が王太子様と恋愛結婚!?
「ここだけの秘密なのだけれど……」
「ふふっ。そういうお話大好きですわ。大丈夫、誰にも言いませんわよ!」

 王城自慢の美しい庭園で、二人のご令嬢が仲睦まじくおしゃべりをしている。

 我が主、ウィンベリー王国第一王女のシャーロット王女殿下。そして、スペンサー公爵家のベアトリス様である。

 煌めく黒髪、王族のみが持つ真紅の瞳のシャーロット王女殿下は、我が国の宝石姫と例えられるほどの美姫である。
 一方で、輝く銀髪に翡翠の瞳を持つ儚げな雰囲気の公爵令嬢、ベアトリス様。こちらは浮世離れした美しさであるためか、妖精姫と例えられている。
 我が国が誇る二大美姫が揃って並べば、女神を描いた絵画のようで、大変眼福である。

 お二人はご年齢が同じであること、王女と公爵令嬢という尊きお立場同士ということもあって、幼い頃から大変仲が良いそうだ。王族と幼馴染なんて、貧乏伯爵令嬢の私にとっては想像も出来ない。

「まぁ! ほんとうに!?」
「誰にも言ってはだめよ? 絶対よ?」
「秘密の恋なんて素敵! 応援しますわ」

 お茶会は久々である為か、おしゃべりに花が咲いている。しかし私の関心は、先程からあまり減らないスイーツにあった。

(はわわ……。あの美味しそうなベリーのケーキ! 早く召し上がらないと乾燥しないかしら? それにしてもどうしてあんなにキラキラと光り輝いているの? 食べてみたい……!)

 誤解のないようお伝えしておくと、私は常日頃から王女殿下専属の侍女として、真面目に仕事をしている。
 実家が貧乏で、義母や義姉に使用人のように扱われていた為、家事は得意だ。特に掃除は自信がある。一応「伯爵令嬢」であるにも関わらず、家事に慣れているので最初は驚かれたが、今は重宝されている。
 王女殿下の侍女となり、乱雑に保管されていた大量の装飾品やドレスを美しく整理整頓したところ大変喜んでいただけた。以来、身の回りのお世話はもちろん、お部屋の清掃も私に任せていただいている。

 そんな私を労おうとしてくださったのか、ある日、王女殿下がスイーツを分けてくださった。
 あの日のスイーツは、可愛らしい小さなロールケーキだった。「わたくしお腹がいっぱいだからアナベルにあげるわ」と、王女殿下が仰ったのだ!
 私は嬉しくて、何度も御礼を言って、そのロールケーキを食べた。スポンジはふわっふわで、中には小さく刻まれたフルーツとクリームがとろける甘さを演出していた。言葉にならない程、美味しくて、甘くて、しあわせな気持ちになり、私はすっかりその味の虜になってしまった。

 以来、王女殿下の「お裾分け」が、私の働く喜び、生きる希望になっている。私があんまり喜ぶので、最近はお裾分けの頻度が上がってきた。

 今日のスイーツの量は、絶対にご令嬢二人には多すぎる。きっとこのお茶会の後で、余ったスイーツを「少し食べて良いわよ」とおっしゃってくださるに違いない! ワクワクしつつ、私は存在感を消し、シャーロット殿下のお茶のおかわりをそっと注いだ。
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