お菓子に釣られたシンデレラ 王女様の命令で私が王太子様と恋愛結婚!?
「アナベル、貴女もそう思うでしょ?」

 お菓子に思いを馳せていたところに、突然シャーロット殿下が私に話を振った。内心驚いたが、顔には出さない。しかしどう答えたものか悩む。お菓子ばかり見つめていたので、会話の内容を全く聞いていなかった。

「え、ええ。……王女殿下の仰せの通りにございます」
「まぁ! アナベルもそう思うわよね! そうよね!」

 私の返答に喜ぶ王女殿下。文脈が分からないが私もにっこり笑みを返す。よかった、回答を間違えていなかったようだ。しかし何の話だったのだろうか。焦る気持ちを隠して微笑みを携え、話の続きを聞く。

「やっぱり恋愛結婚が出来たら素敵ですわね……。貴族に産まれたからには、政略結婚をして政治の駒になることは分かっているけれど。もし可能であれば、心からお慕いする方と添い遂げてみたいわ……」

 うっとりと夢をつぶやくベアトリス様。どうやらお二人は、恋愛結婚に対する憧れを語り合われていたようだ。

 我が国の貴族は政略結婚が主流。しかし、流行りの恋愛小説で『貴族令嬢と平民男性による禁断の恋愛結婚』が描かれてからというもの、恋愛結婚に憧れを抱く貴族令嬢が急増しているのだとか。
 しかし、王女殿下と公爵令嬢というお立場であれば、恋愛結婚は無理だろう。彼女達がどの家に嫁ぐかによって、この国の勢力図が大きく変化してしまうのだから。

 シャーロット殿下はそれをご存知のはずだが、一方でご自分の意思を必ず貫き通す御方だ。華奢で可愛らしい見た目とは真逆の、真の強い王女様である。
 殿下は、私とベアトリス様から賛同を得たことで自信を持ったのか、生き生きと「良い案がありますわ」と仰った。

「わたくし考えましたの! 今の流れに乗って本当に『恋愛結婚』を流行らせたら良いんじゃないかしらって」
「まぁ! 名案ですわ! でもどうやって?」
「王太子であるお兄様の結婚は、誰もが注目するはず。だからお兄様が恋愛結婚したら、貴族達も政略結婚ではなくご自分の好きな方と結婚しようと思い始めるのではないかしら」

 なるほど。シャーロット殿下の兄、フィリップ王太子殿下は、容姿端麗、頭脳明晰、何をとっても完璧な御方だと聞いている。まさに物語の王子様そのものだ。その王太子殿下が『恋愛結婚』をしたのだと発表されれば、確かに惹かれ合う男女の励みになるかもしれない。

「それでね、ベアトリスの結婚相手は、お兄様が有力候補でしょ? ベアトリスとお兄様が恋愛結婚したら良いんじゃないかと思っていたのだけれど、どうかしら?」

 意気揚々に語るシャーロット殿下。対照的に、一気に暗い顔になるベアトリス様。どうしたのだろう。フィリップ王太子殿下はお気に召さないのだろうか。

「……わたくしが王太子殿下と結ばれ、シャーロット様と義理の姉妹になれるのは、魅力的ですわ」
「ええ、そうでしょう!」

 シャーロット殿下は嬉しそうに返事をしたが、ベアトリス様は厳しいお顔のままだ。不敬かと思ったが思わず私も口を挟む。

「恐れながらベアトリス様、何か不都合がおありになるのでは?」

 そっと尋ねると、ベアトリス様はビクッと反応した。シャーロット殿下が「まぁ。お兄様が嫌なのね?」と問うと、ベアトリス様は困り顔になった。それすらも美しく儚げで、さすがは妖精姫と呼ばれている方だわと内心感嘆していると、ベアトリス様が驚くべきカミングアウトをしてきた。

「……実はわたくし、理想の殿方がいるのです……」
「ええ!? 初めて聞いたわ! どんな方?」
「……政略結婚をしなければならないのは分かっているのです! だから、秘密、ですよ? アナベル、貴女もよ」
「は! はい!」

 私も聞いていて良いと暗に伝えていただけたので、そのまま固唾を飲んで次の発言を待つ。ベアトリス様は意を決して、小さな声でつぶやいた。

「……わたくし、筋肉が好きなの……」
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