お菓子に釣られたシンデレラ 王女様の命令で私が王太子様と恋愛結婚!?

 予想外の「筋肉」というワードに、何も言葉が出てこない。ぽかーんとする私たち二人をよそに、ベアトリス様は『憧れ』を矢継ぎ早に語り始めた。

「わたくしはっ、筋肉を鍛え抜いた男性が好みなのですっ! 隆々とした盛り上がりにこそ萌えるし、ときめくし、漢を感じるのです! お腹が六つに割れているだけじゃ駄目! たくましい上腕二頭筋! 分厚い大胸筋! 美しい背筋! そういう理想的な体型の方を探し求めているの! この国の男性ときたら、すらっと細いゴボウみたいな方ばかり! 顔が良くても筋肉がないんじゃ意味ないのです!」
「ゴボウ……」
「……きん、にく……」

 なんということでしょう。ベアトリス様の独特なご趣味が発覚してしまった。彼女は王太子殿下の婚約者候補の筆頭だ。順当にいけば、政治的にも彼女が王太子妃になるのが相応しい。しかし、王太子殿下は顔こそ大変整っていらっしゃるが、お身体はそこまで筋肉隆々ではなかった気がする。大変なことを聞いてしまった。こ、この情報は墓場まで持っていかないと。

「そう……。王太子であるお兄様が恋愛結婚してしまえば、この国でも恋愛結婚が流行るんじゃないかって思ったんだけれど……お兄様の筋肉はそんなに発達していない気がするわ……」
「申し訳ございません、シャーロット様。ですが、わたくしの趣味の問題もあるけれど、王太子殿下の結婚相手が公爵令嬢では、恋愛か政略か分かりにくいんじゃないかしら? 物語のような『身分を超えた恋愛』の方が、民衆の支持を得そうですわ」
「確かにそうね」

 王太子殿下は今年で二十一歳。そろそろご結婚もお考えになる頃合いだが、婚約者さえいない。それは、我が国の貴族間のパワーバランスがなかなか難しいことに加え、隣国との緊張した関係も影響しているそうだ。

「お兄様と『身分を超えた恋愛』をしてくださるご令嬢……」
「お隣の獣人国なんて(つがい)を見つけたらそれはそれは激しく愛し合うらしいですわ。身分も関係なく。獣人の方々は番が本能でわかるのですって。運命のお相手に出逢ったらすぐに分かるなんて羨ましいわ」
「……そうよ! お兄様の運命の相手を見つけたら良いんだわ! 身分も関係ない運命の糸! そして恋愛結婚!」

 シャーロット王女殿下は、「私が占えばいいんだわ!」と瞳を輝かせた。王女殿下は『占術』が得意だ。その腕前は確かで、我が国の政策にも一役買うこともあるほどよく当たる。

 王女殿下は、つけていたペンダントを外して目の前に垂らした。目を閉じ集中する。すると辺りの風が止み、急にしんとした。

「風よ、水よ、精霊よ。我が問いに応えたまえ。風よ、水よ、聖霊よ。我が国の王太子にしてわたくしの兄、フィリップに最も相応しい令嬢を示したまえ……!」

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