お菓子に釣られたシンデレラ 王女様の命令で私が王太子様と恋愛結婚!?
「アナベル、作戦会議をいたしましょう!」

 そう主に言われてしまえば、私に逆らう権利はない。椅子に座るように言われ、おずおずと指示に従った。

「さあアナベル! お兄様を落として恋愛結婚しましょうね!」
「恐れ多いですし、無理かと……。 申し訳ございませんが別の方に……。わたくしなんかではお相手に相応しくはございません!」
「わたくしの占いは百発百中ですわ! アナベルがお兄様の運命の相手なの!」

 シャーロット王女殿下は、意志の強いお方だ。「こうと思ったらこう!」と普段から意見を曲げてくださらない。しかしこの件に関しては、どうにかご意見を変えてほしい。

「政略結婚させられそうなわたくしを救うと思って! がんばって!」

 ベアトリス様は、私の同情を買おうとしてくる。半分楽しんでいそうな気もするが。確かに彼女の好みを聞いてしまった今、無理に政略結婚させられるのは可哀想ではあるが……。私だって王太子殿下のことは、シャーロット殿下の兄上ということ以外何も知らないのだ。無理矢理がすぎる!

「アナベル、ご実家では苦労していたと聞いているわ。義理のお母様もお姉様も意地悪する方々だったのでしょう? 今こそ玉の輿を狙って彼女達をぎゃふんと言わせましょう!」
「意地悪な継母と義理の姉……王子様と恋……! 物語そのままだわ!」

 シャーロット様の言葉に、ベアトリス様がぶつぶつと何か言い始めた。

「物語?」
「い、いえ! 昔に読んだ童話にそっくりな絵本がありましたの! 継母と義姉に虐められた令嬢が、王子様と恋に落ちるお話ですわ」
「まぁ素敵!」
「そしてそういうお話には、『悪役令嬢』と『魔法使い』がつきもの! わたくしは『悪役令嬢』として貴女達の恋を盛り上げますわ!」

 ベアトリス様が『悪役』だなんてありえない。これほどに美しく輝く妖精のようなお方が、物語の主人公でないはずがない。私こそ、物語の端っこで、主人公達の恩恵を少しだけ受けて感謝を述べるような、その他大勢の中の一人だ。王太子殿下にお近づきになれるような特別な人間ではない。……時々、シャーロット殿下のお菓子を分けていただくだけで幸せを感じるのだ。そういう小さな幸せだけでいい。

「シャーロット様は魔法使いですわ! アナベルをとびきり美しく変身させてあげてちょうだい!」
「うふふふ! よく分からないけれど、女性を磨くのは楽しそうね」
「さぁミッションスタートよ!」

 盛り上がるご令嬢達に苦笑いを浮かべながら、どうしたらこのお二人の熱が冷めて諦めてもらえるか、頭の中で考え続けていた。
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