お菓子に釣られたシンデレラ 王女様の命令で私が王太子様と恋愛結婚!?
ひとしきり孤児院で遊び、日が暮れてきたので別れを告げて王城へ帰る。結局私は王太子殿下と出会うことなく孤児院で過ごせた。一安心だ。
(安心したらお腹が空いてきたな……)
王都の出店は絶品揃い。これから仕事を終えた人々が、夕飯を買い出しにくるためか、良い匂いが色んなお店から漂ってくる。
ぐぅぅぅ。
私のお腹が限界だ。何か買い食いしてから帰ってもいいかしら。牛塊肉の串焼き、揚げポテトにフライドチキン、キッシュもある。少し入った通りにあるベーカリーも良いかもしれない。
「ああ、いいにおい……」
空腹の身体にたっぷり美味しそうな匂いを充満させようと、目を閉じて思いっきり息を吸っていた。するとドンっと身体に衝撃が走る。
「きゃっ!」
「危ない!」
前方からきた誰かとぶつかって転びそうになってしまった。相手が抱き止めてくれたおかげで転ばずに済んだようだ。「す、すみません!」とそのまま顔を上げると、かなり至近距離で美しいお顔と目が合った。
「!!」
驚きで目が反らせない。心臓がバクバクと警告音を鳴らしている。
「殿下! 我々より前に出られては困ります!」
「すまん。よそ見していたら、この御令嬢とぶつかってしまった」
護衛の『殿下』という言葉で、驚きが確信に変わる。
漆黒の艶やかな黒髪と、王族だけが持つ真紅の瞳。数多の貴族令嬢を虜にする、美術品のような整ったご尊顔は、美しき我が主シャーロット殿下によく似ている。つまり、シャーロット殿下のお兄様、フィリップ王太子殿下だ……!
シャーロット王女殿下の『恋愛してこい』という命令が頭を駆け巡るが、どう考えても無理だ。こんなに見目麗しいお方と恋愛なんてできるわけがない。一秒だって見つめることができないのに!
しかも、ぶつかった挙句、転びそうになって抱き止めてもらってしまった! 不敬罪で牢屋行きだろうか!? 慌てて身体を離し、思わぬ偶然に衝撃を受けながら頭を下げた。
「ぶつかってしまって申し訳ございません! ………あ、ありがとう、ございます……!」
「ああ、君、大丈夫か?」
「……はい」
王太子殿下は気遣ってくださったが、蚊の鳴くような声で俯いたままなんとか受け答えするのが精一杯だ。
「体調がすぐれないのかも知れない。よければ我が騎士に送らせよう」
「い、いえ! 結構ですわ」
「だが」
「本当に普段はとっても健康なのです! 先程は空腹を感じてふらついただけで! 大丈夫です! ありがとうございました!」
そう一気に宣言して走り去ろうとしたところ、私の腕を王太子殿下の手が引き留める。
「待て」
「!」
「何か奢ろう」
「!!」
頭では冷静に、『恐れ多いし辞退すべき』だと分かっている。でもお腹がきゅるきゅるきゅるとタイミング良く鳴り響く。辺りは食べ物の良い香りが漂う中、そんな魅力的なお誘いを受けないなんて選択肢はなかった。
(安心したらお腹が空いてきたな……)
王都の出店は絶品揃い。これから仕事を終えた人々が、夕飯を買い出しにくるためか、良い匂いが色んなお店から漂ってくる。
ぐぅぅぅ。
私のお腹が限界だ。何か買い食いしてから帰ってもいいかしら。牛塊肉の串焼き、揚げポテトにフライドチキン、キッシュもある。少し入った通りにあるベーカリーも良いかもしれない。
「ああ、いいにおい……」
空腹の身体にたっぷり美味しそうな匂いを充満させようと、目を閉じて思いっきり息を吸っていた。するとドンっと身体に衝撃が走る。
「きゃっ!」
「危ない!」
前方からきた誰かとぶつかって転びそうになってしまった。相手が抱き止めてくれたおかげで転ばずに済んだようだ。「す、すみません!」とそのまま顔を上げると、かなり至近距離で美しいお顔と目が合った。
「!!」
驚きで目が反らせない。心臓がバクバクと警告音を鳴らしている。
「殿下! 我々より前に出られては困ります!」
「すまん。よそ見していたら、この御令嬢とぶつかってしまった」
護衛の『殿下』という言葉で、驚きが確信に変わる。
漆黒の艶やかな黒髪と、王族だけが持つ真紅の瞳。数多の貴族令嬢を虜にする、美術品のような整ったご尊顔は、美しき我が主シャーロット殿下によく似ている。つまり、シャーロット殿下のお兄様、フィリップ王太子殿下だ……!
シャーロット王女殿下の『恋愛してこい』という命令が頭を駆け巡るが、どう考えても無理だ。こんなに見目麗しいお方と恋愛なんてできるわけがない。一秒だって見つめることができないのに!
しかも、ぶつかった挙句、転びそうになって抱き止めてもらってしまった! 不敬罪で牢屋行きだろうか!? 慌てて身体を離し、思わぬ偶然に衝撃を受けながら頭を下げた。
「ぶつかってしまって申し訳ございません! ………あ、ありがとう、ございます……!」
「ああ、君、大丈夫か?」
「……はい」
王太子殿下は気遣ってくださったが、蚊の鳴くような声で俯いたままなんとか受け答えするのが精一杯だ。
「体調がすぐれないのかも知れない。よければ我が騎士に送らせよう」
「い、いえ! 結構ですわ」
「だが」
「本当に普段はとっても健康なのです! 先程は空腹を感じてふらついただけで! 大丈夫です! ありがとうございました!」
そう一気に宣言して走り去ろうとしたところ、私の腕を王太子殿下の手が引き留める。
「待て」
「!」
「何か奢ろう」
「!!」
頭では冷静に、『恐れ多いし辞退すべき』だと分かっている。でもお腹がきゅるきゅるきゅるとタイミング良く鳴り響く。辺りは食べ物の良い香りが漂う中、そんな魅力的なお誘いを受けないなんて選択肢はなかった。