彼は高嶺のヤンキー様10(元ヤン)
「帰るで!!」
そう言って、ただの未子さんにヤマトが背を向けた時だった。
「連絡先を聞いてない!!!」
ただの未子さんが叫ぶ。
「連絡先を教えてくれてない!!!見殺しにして逃げる気なの!!!?」
そう言いながら立ち上がると、俊敏な動きでヤマトの横を通過する。
「あ!?待てやコラ!!」
ヤマトの静止から逃れ、私の前までくると、スマホを突き付けながら叫ぶ。
「逃げないで!!!同意書にサインしてくれたか確認したい!!!連絡手段がないと、それさえもできない!!!同意書だけ持ち逃げして、見殺しにするまねしないわよね!!?連絡先を教えてくれますよね!!?」
ボロボロ泣きながら言う女を見て思う。
(やっぱり、檜扇家の人間はクソだ!!)
「お願い!!!お願いします!!!助けて下さい!!!助けて!!!」
ワンワン泣きながら言われる一方で、店内で私にスマホを向ける人達は確実に増えていた。
(――――――――――――しかたない。)
迷った末に決断する。
ポケットからスマホを取り出して、画面をタッチする。
そして、ボロボロと涙を流しているしたたかな女に見せた。
「これが僕の番号です。」
「あ、あ、ありがとう!!!ありがとうございます!!!」
そう言って、ペコペコと何度も私に頭を下げるクソ女。
途端に、店内からあふれんばかりの拍手がわき起こる。
(完全に俺らがヒールかよ!!?)
客だけでなく、スタッフも拍手してる姿を見て、ヤマトの方へ視線を送る。
これにヤマトは、肩をすくめて答えてくれた。
「ま、待って!!!番号が正しいかどうか、こちらから送るから、待って!!!」
「・・・ウソなんか教えてませんよ。」
私の言葉に合わせ、私のスマホが着信を知らせるメロディーを奏でる。
ついでに、LINEの通知を知らせる音も鳴る。
「よかった!!!ちゃんと通じた!!!」
「だからウソは教えてないと――――――――」
「連絡先を教えてくれただけでも神様に感謝しなきゃ!!!ありがとう!!!ありがとうございます!!!」
そう言いながら、その場に座り込み、顔を膝にうずめるクズ女。
(不愉快だ・・・帰ろう。)
ヤマトに目配せして、その場から離れる私達。
「薄情者。」
「人でなし~」
「動画撮れた?」
「バッチリ♪」
「顔見せろよ、卑怯もん!」
マクドナルドの広い店内から出るまで、見知らぬ客達から投げかけられたひどい言葉の数々。
クソ女の芝居に加え、野次馬達からの勘違い発言にひどく腹が立ったのだった。