彼は高嶺のヤンキー様10(元ヤン)
「し、私有地、ですか・・・?」
「オメーがミンチ肉にされかけた工場は、檜扇家の持ちもんだ。さっさと出て行け。」
携帯用の灰皿を取り出し、加えていたたばこの火を消すと、私の横を無言で通り過ぎる柊護さん。
「あ、待って下さい!!」
そう言ってみたが、相手は止まる様子がない。
「ま、待って下さい!!檜扇柊護さん!!」
反射的に追いかける。
「あ、凛先輩!!待って下さいよ!!」
「待って!凛君!!」
それで私の後を、雷太と涼子ちゃんもついてくる。
しばらく歩けば、工場の外に出る。
道路に面した場所に、見覚えのあるバイクが止めてあった。
(ヘルメットマンさんのバイク!!)
そう思った時には、単車にまたがっていたヘルメットマンさん。
「あの!!」
相手がキーを差したところで追いつく。
その腕を両手でつかむ。
それでまた、ギロッとにらまれる。
「気やすく触んじゃねぇーよ。愛人のガキ風情が。」
「誤解です!!僕は慢性女好き病のクズの子供じゃないです!!」
「じゃあ俺は、慢性女好き病クズの子供ってことか?」
「あ!!?・・・ざ・・・残念ながら・・・!!」
「ハッ!馬鹿正直かよ。」
申し訳ない気持ちで真実を告げれば、鼻で笑われる。
「さっさと汚ねぇ手ぇ離せ。おりゃ、帰りたいんだよ。」
「す、すみません!!離しますので、聞いて下さい!!」
サッと手を離し、相手を見ながら頭を下げた。
「危ないところを助けて下さり、誠にありがとうございました!!檜扇柊護さんのおかげで、僕達4人は命拾いしました!!助かりました!!」
「4人?」
顔を上げれば、けげんそうな顔で私を見る瞳とぶつかる。
「はい!僕と高野舟槙と、涼子ちゃんと雷太の4人です!!」
「前者の2人はわかるが、なんで女とガキが命拾いしたことになるんだ?」
「え!?だって、僕を捕まえた奴らが、外で見張ってる可能性があるじゃないですか?そこへ、無防備な涼子ちゃんと雷太の2人が遭遇してたら、2人も殺されてたかもしれないじゃないですか?」
「・・・。」
私の意見に、柊護さんは目を細めて黙り込む。
視線は私に注がれていたが、怒っている様子はない。
ただ――――――――
「さっさと病院に行け。」
そう言って、優しい動作で、自分の手をつかんでいる私の手をどける柊護さん。