無自覚なまま、愛を蓄えて。
まだなにか言いたそうな顔をしたマスターをグイグイと押しかえす。そうすると渋々といった感じで厨房に戻って行った。
「……はぁ」
その後ろ姿を見て思わずため息をついてしまう。まさか梓くんの話をすることになるとは思わなくて、変に気を張ってしまっていた。
忘れよう忘れようと思っていた気持ちも、なんだかまた動き出す。
梓くん、今頃何をしているのだろうか。
ちゃんと家に帰っているのかな。
もしかしてまだ“あの場所”にこもっているのかな。どちらにせよ、梓くんのことが頭から離れなくなっていた。
私は重い腰を上げ、梓くんのことを考えながら、閉店準備に取り掛かった。