腹黒御曹司の一途な求婚
「ごめん……見苦しかったよね……ごめん…………」

 惨めだった。
 良好な関係を築いている久高くんと芙由子さんの様子を見た後だから、余計に自分の家族の歪さをまざまざと感じて。

 久高くんの目にも、私と貴子さんのやり取りはひどく醜悪なものと映っていたに違いない。
 彼の心が離れていってしまう予感がして、全身が総毛立った。

 ごめんなさい、とそればかり繰り返していると、制止するように繋いだ手をギュッと強く握られる。
 痛みすら感じて顔を上げた、その視線の先で、久高くんは端正な顔を切なげに歪めていた。

「そんなこと、思うはずないだろ……」
 
 血反吐でも吐くかのように、久高くんは苦しげに唸った。

「もっと早く、萌黄を連れ出せばよかった。そうしたら、こんな辛そうな顔をさせずにすんだのに。ごめん……」

 揺れる彼の瞳に私への蔑視は見受けられない。それどころか後悔が滲んでいる。
 私の方こそ、久高くんにそんな顔をしてほしくなくて眉を下げた。

「……久高くんが謝る理由なんて一つもないよ」
「あるよ。俺は萌黄を守りたいから。……本当は真綿でぐるぐるに包んで大事にして、ずっと俺のそばに置いておきたいんだ」

 赤信号で立ち止まった久高くんが大きな手で私の頬を撫でる。
 冗談だと思うけど、真綿で簀巻きにされる想像をすると可笑しくなって、少し気分が軽くなった。
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