腹黒御曹司の一途な求婚
「そういえば美濃さんって、ここの前は大阪でしたけど、出身は東京なんですか?」

 話の流れで前の勤務地である大阪の系列ホテルについて話していると、小芝さんがそう切り出してくる。
 
「うん、そう。大阪も楽しかったんだけど、こっちに祖母がいるから帰って来たくて。だから意外と早く帰って来れてちょっと安心してる」

 私のことを可愛がってくれていた祖父が亡くなったのは一昨年の暮れことだった。一人になってしまった祖母が心配で、近くに住みたいという思いから異動願いを出していた。今回の転勤はそれが通った形だ。
 転勤先がここだとは思わなかったけど……という本音は笑顔の裏に隠しておく。
 
「それはよかったですねぇ。あ、じゃあ東京の人ならここに来ても特に驚かないですよね。私、初めて来た時驚いちゃって……」
「……何が?」

 このホテルは五つ星の最高級ホテルでかなり規模が大きい方だけど、働く側からしてみれば驚くほど奇抜な点はないと思う。首を傾げてみせると、小芝さんは鼻息荒く拳を握った。

「だって!ここ、街のど真ん中に柵があるじゃないですか!私、最初お城でもあるのかなってびっくりしちゃいましたよ」
「あ、ああ……そうだよね……」

 そっちの話か、と私は少し呆気に取られる。
 あるのが当たり前だったので、疑問を抱いたことすらなかった。つい、相槌が歯切れの悪いものになる。
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