腹黒御曹司の一途な求婚
 一方でそんな父の動揺すら意に介さないとばかりに、蒼士は笑顔のポーカーフェイスを浮かべている。

「萌黄さんとは小中学校の同級生だったんです。半年ほど前に偶然再会しまして、僕の方から交際の申し込みをさせていただきました」
「そ、そうなのですね……いやはや、お恥ずかしい。娘はなかなか連絡を寄越さないものですから存じておらず……私からご両親へご挨拶もできておりませんで、申し訳ない……」

 揉み手をして蒼士に媚びへつらう父に、私は呆気に取られた。

(どういうこと……?)

 その口ぶりではまるで、私が一方的に父との連絡を断っているかのよう。
 私へ美濃家と関わりを断つように言ったことを忘れている?いや、そんなはずない……。

 暗い思考の海に沈みそうになっていると、不意に蒼士が私の手を取って自分の肘に掛けるよう誘導してきた。
 疑問に思いながらも、素直にそれに従う。

「いえ。美濃社長のお手を煩わせるには及びませんよ」
「は……?」
「萌黄さんからは、ご両親はいないと伺っています。美濃社長に個人的にご挨拶をいただく理由はございません」
「なっ……!い、いや、娘とは少しばかり諍いがあっただけで、そんな……私は正真正銘、萌黄の父親で……」
「美濃社長、二度は言いません」

 口籠る父の言葉を笑顔でピシャリと遮った蒼士は、こう続けた。
 
「僕の父も同じ意向です。もちろん、今後とも御社とは変わらぬお付き合いをさせていただきたく存じます。また時期が来ましたら、当行の担当者から改めてご挨拶へ伺わせていただきますので。――それではこちらで失礼いたします」
 
 あからさまな社交辞令と共に会釈をすると、蒼士はそのまま父に背を向けた。
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