腹黒御曹司の一途な求婚
 まさかそんなに強引に話を打ち切るとは思っていなかったので、ついポカンとしてしまう。
 踵を返す寸前、チラリと視界の端に入った父も同じように呆気にとられていた。

 目を白黒させながら再び会場を歩いていると、背後から噴き出し笑いが聞こえてくる。

「おまえ、結構はっきり言ったなぁ。すげー嫌味」
「あれで伝わっていたらいいけど。――ごめん、萌黄。俺が一方的に話を終わらせちゃって……」
「う、ううん……。私も……頭が真っ白になっちゃってたから……」

 パーティーへの参加を決めてからというもの、ずっと考えていた。父に会ったら何を言おうかと。
 けれどその考えがまとまることはなかった。十三年前の恨みつらみを晴らしたいわけじゃなかったから。
 
 それでも毅然と振る舞えると思っていた。何もいえなかった子供の頃とは違う。今度こそ対等に父と話ができると思っていたのに。

 実際に父を前にすると、脳のシナプスが死滅してしまったかのように何も考えられなくなっていた。本当に頭が真っ白になって、一言も発することができなかった。

 結局は和泉さんに、そして蒼士に庇ってもらうだけで。情けないことこの上ない。
 消沈していると、蒼士の手の甲が私の頬を掠めるようにそっと撫でた。

「お父さんの言ったことは、あまり気にしない方がいい。体面とか色々あるんだろう。お父さんとの関係も含めて、これからのことはまたゆっくり、一緒に考えていこう」
「……うん」
「和解するにしても、時間は必要だと思う。さっきはああ言ったけど、萌黄が望むなら、後々はお父さんと個人的な交流を持つのもやぶさかじゃないから」
「うん……ありがとう、蒼士……」
「萌黄ちゃん、よく頑張ったよ。お疲れ様」

 明るい調子で和泉さんがそう言ってくれたのだけれど、なぜか蒼士はジトーっと彼を睨んでいる。
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