腹黒御曹司の一途な求婚
 カードキーが収められていたスリーブに書かれた部屋番号を頼りに、スイートルームのあるエグゼクティブフロアを進む。

 蒼士が手配してくれていたのは、アンバサダースイート。
 
 アスプロ東京のスイートルームは、部屋の広さによってスタンダード、プレミアム、ロイヤルと格付けされていて、アンバサダースイートは真ん中のプレミアムスイートに分類されている。
 真ん中のクラスとはいえ、一泊で私の月給は軽く吹き飛ぶのでお手頃感は全くない。

 ベロア地のモダンな円形ソファの端っこに、帯が崩れないようちょこんと座り、しげしげと中を見渡す。なにせ、こんないい部屋は新入社員研修でも足を踏み入れることはなかったので。

 部屋を照らすのはクリスタルの豪奢なシャンデリア。一面の大きな窓からは夜の東京湾を一望できる。
 
 窓際の大理石の書き物机の横には、しっかり私の荷物も置かれていた。パーティーの間は持ち歩けないし、蒼士の車に置いたままでいるのも不用心……ということでクロークに預けていたけれど、どうやらここまで運んでくれていたらしい。

 そこで別れ際に蒼士に言われたことをハタと思い出す。
 
「そうだ、衣装室の人が来てくれるんだよね……」

 振袖を脱ぐ時のお手伝いに来てくれるのだそう。
 だから部屋に着いたら、まずエグゼクティブラウンジへ連絡するように言われていたんだった。
 
 微に入り細を穿つほど様々な手配をしてくれて、申し訳な……いや、ありがたい限りだ。
 彼の抜け目のない用意周到ぶりに感服しつつ、私は重たい腰を持ち上げて、書き物机の上に置かれている客室電話の受話器を取った。
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