腹黒御曹司の一途な求婚
 振袖から無事解放された私は、手持ち無沙汰になって蒼士の様子を窺いにバンケットホールへ戻ることにした。
 一人だけのんびりするのは気が引けて。それに蒼士のご両親に挨拶もしないまま抜けてしまったので。

 幸い、キレイめのワンピースを着替えに持ってきていたので会場付近をうろついていても違和感はないと思う。
 
 蒼士がプレゼントしてくれたアイボリーのこのワンピースは、シンプルなIラインのデザインだけれど、袖部分がキャンディスリーブになっていて可愛いところがお気に入りだ。
 着替えの際にメイクと髪型も直してもらったことだし、問題もないはず。

 バンケットホールがある地下フロアまで降りると、ホワイエは多くの人で賑わっていた。
 ちょうど閉会した頃合いなのかもしれない。

(控室で待っていたら会えるかな?)

 壁際に移動し、ひとまず蒼士へメッセージを入れようと、パーティー用のショルダーバッグからスマートフォンを取り出す。
 その時、誰かが私の目の前に立ち止まった。

「もしかして、美濃さん?」

 こういう会話、前にもしたような……。
 そう思って顔を上げたのだけれど、目の前に立つ人は全く知らない人だった。

 スラリと背の高い男性。多分、歳は私と同じくらい。
 グレンチェックのスーツを完璧に着こなし、やや癖のある黒髪を活かすようにお洒落にセットしている。
 
 私の名前を知っている……ということは恐らく知り合いなのだろうけれど、思い当たる人物が記憶の中にいない。ちょっと焦る。
< 123 / 163 >

この作品をシェア

pagetop