腹黒御曹司の一途な求婚
「蒼士とはどう?あいつ、相当浮かれてるんじゃない?美濃さんに再会したって話してた時もすげー嬉しそうだったから。なにせ初恋の相手だし」
「え……いや……浮かれてるってほどじゃないとは思うけど……。ていうか、な、なんで知ってるの?その……蒼士の初恋が、私だって……」

 揶揄われているのは分かっていても、聞き捨てならない。声にならない叫びが口の中で暴れ回っている。
 羞恥と動揺で唇をわななかせていると、伊勢谷くんは大口を開けて笑った。

「いやだって、あいつめちゃくちゃ分かりやすかったし。当時から俺、二人は付き合ってたんだと思ってたから。美濃さんが転校しちゃった後も、すげー目に見えて落ち込んでてさー。ため息ばっかりつきまくってたから、辛気臭いのなんのって。多分中等部のこと覚えてる奴なら全員知ってると思うよ」
「そ、そうなんだ……」

 分かりやすいほど好いてくれていたんだ……それに気付かない当時の私って……。
 自分の鈍感さにほとほと呆れる。

「そうそう。まあ、そういうのって得てして当事者は気付かないもんだからね。……あ、引き止めちゃってごめん。美濃さん、蒼士のところへ戻る途中だよね?」
「ううん、急いでたわけじゃないから。それにパーティを抜けて戻ってきたところで、蒼士がどこにいるのか分からなくて。だから控室で待っていようと思っていたの」
「そういうことなら俺も付いていこっかな。蒼士とはまだ話せてないし」
「ほんと?」

 伊勢谷くんが一緒にいてくれるのは正直ありがたかった。静かな控室に一人きりで待っていると、色々物思いに耽ってしまいそうだったから。
 
 元同級生なだけあって伊勢谷くんには変に気を遣わなくてすむし、彼自身が気さくなのもあって話しやすいのもある。
 
「じゃあ一緒に行こっか」

 頷いて、伊勢谷くんと共に控室へ向かうことにした。
 ただ、いくら幼馴染だからといって控室に関係者以外を入れるのはよくない。その手前で待っていればいいかな、と思いつつ歩いていると、不意に伊勢谷くんが指を差した。

「あれ、蒼士じゃない?」
 
 その指先の指し示す向こうに、確かに蒼士がいた。
 壁際に立って誰かと話している様子だけれども、大きな円柱がちょうど視界を遮っていて誰だか見えない。
 一歩、二歩、三歩――それだけ進むと相手の顔も見えてきて。
 "彼女"の顔が視界に入り込んだ瞬間、私の心臓が縮み上がった。
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