腹黒御曹司の一途な求婚
ピリオド
「話って、何……?」
アスプロ東京の斜向かいにある、カフェチェーン店。
それなりに賑わう店内で、空いている席に着いた私はゴクリと唾を呑み込み、正面に座る父を見つめた。
父はどこかすわりの悪そうにしながら、店のロゴマークが印字された紙カップに口をつけ、ホットコーヒーを啜っている。こういう大衆店に入るのは初めてと言っていたので、そのせいかもしれない。
控室の前で私を待っていたという父は、開口一番に「話がある」と言って私を連れ出した。その強引さと言ったら、一緒にいた伊勢谷くんに「ごめん」と断りを入れることしかできなかったほど。
顔を合わせるのも二回目なので、先程のような動揺はない。
腕を強く掴まれた箇所は、まだジンジンと痛んでいた。父へ向ける眼差しが、少し恨みがましいものになる。
コホン、と父が咳払いをした。
「この街に、戻っていたんだな……こんなに近くにいるとは思わなかった。アスプロ東京は、その……勤めて長いのか?」
父は本題に触れることなく、訥々と問いかけてくる。
勤務先を言うつもりはなかったけれど、父が最初ホテルのロビーにあるバーラウンジに入ろうとしたので、止めるために言わざるをえなかった。
さすがに、スタッフが全員知り合いの店で込み入った話はしたくなかったから。
「去年の四月に転勤で異動になったの……」
「そうか。菊乃屋の店にはもう顔は出したか?本店の従業員の中には確か、おまえのことを知っている者もまだ残っているはずだ。それに五年ほど前に改装もしたから、印象もかなり変わっているぞ。まだ行っていないなら、今度案内しよう」
おかしなことを言う父の顔を思わず凝視してしまう。
私が菊乃屋の店に近づくなんてありえない。それを禁じたのは父だ。
なのにどうして、そんなことを言うんだろう。
アスプロ東京の斜向かいにある、カフェチェーン店。
それなりに賑わう店内で、空いている席に着いた私はゴクリと唾を呑み込み、正面に座る父を見つめた。
父はどこかすわりの悪そうにしながら、店のロゴマークが印字された紙カップに口をつけ、ホットコーヒーを啜っている。こういう大衆店に入るのは初めてと言っていたので、そのせいかもしれない。
控室の前で私を待っていたという父は、開口一番に「話がある」と言って私を連れ出した。その強引さと言ったら、一緒にいた伊勢谷くんに「ごめん」と断りを入れることしかできなかったほど。
顔を合わせるのも二回目なので、先程のような動揺はない。
腕を強く掴まれた箇所は、まだジンジンと痛んでいた。父へ向ける眼差しが、少し恨みがましいものになる。
コホン、と父が咳払いをした。
「この街に、戻っていたんだな……こんなに近くにいるとは思わなかった。アスプロ東京は、その……勤めて長いのか?」
父は本題に触れることなく、訥々と問いかけてくる。
勤務先を言うつもりはなかったけれど、父が最初ホテルのロビーにあるバーラウンジに入ろうとしたので、止めるために言わざるをえなかった。
さすがに、スタッフが全員知り合いの店で込み入った話はしたくなかったから。
「去年の四月に転勤で異動になったの……」
「そうか。菊乃屋の店にはもう顔は出したか?本店の従業員の中には確か、おまえのことを知っている者もまだ残っているはずだ。それに五年ほど前に改装もしたから、印象もかなり変わっているぞ。まだ行っていないなら、今度案内しよう」
おかしなことを言う父の顔を思わず凝視してしまう。
私が菊乃屋の店に近づくなんてありえない。それを禁じたのは父だ。
なのにどうして、そんなことを言うんだろう。