腹黒御曹司の一途な求婚
「…………行くわけないよ。私に美濃家と関わらないようにって言ったのはお父さんでしょ……?」
「もしかして、誓約書のことをまだ覚えているのか?あれはもう気にしなくていい。あの時とは事情が変わったんだ」
(え……?)
父の言葉に耳を疑った。
あの誓約書を守ることは、私にとって唯一できる親孝行だと思っていた。なのに、こんなにもあっけなくなかったことにされるなんて……。
愕然としていたら無性に喉の渇きを覚えて、私は自分の分のカフェラテを一口含んだ。
甘くほろ苦い味わいが口の中に広がり、次第に心は落ち着きを取り戻していく。私は改めて父に向き直った。
「……事情って何?どういうことなの?」
事情とやらを訊ねると、眉間に皺を寄せた父が重くため息を吐いた。
「ああ。実は……貴子に一向に子供ができないんだ。どうやらそういう体質のようで、困ったことに私の次がいないんだよ……。一旦は外の人間に任せるにしかないんだが、ずっとというわけにはいかないだろう?十七代、美濃の家で営んでいる菊乃屋を、私の代で他に渡すわけにはいかないんだ。だから将来的には美濃の人間に菊乃屋は継がせたい。萌黄、おまえには美濃家に戻ってほしいと思っている」
(私が、美濃の家に戻る……?)
そんなこと思いもしていなかった。
思考が追いつかずに固まっていると、父が少し慌てたように付け足してくる。
「ああ、違う。別に萌黄に菊乃屋を継いでほしいと思っているわけじゃないんだ。今の仕事もあるだろうからね。ただ、美濃家の娘として、久高くんと結婚してほしい。そして子供ができたら、一人を菊乃屋の後継としてもらい受けたい。久高くんは優秀らしいから、彼との子供ならさぞ出来がいいだろう。一族の者もそれで納得するさ」
私ではなく、いずれ生まれてくるかもしれない孫を後継者に……。
まるで氷をそのまま胃に流し込まれたかのように、お腹の奥が急速に冷えていくのを感じた。
「もしかして、誓約書のことをまだ覚えているのか?あれはもう気にしなくていい。あの時とは事情が変わったんだ」
(え……?)
父の言葉に耳を疑った。
あの誓約書を守ることは、私にとって唯一できる親孝行だと思っていた。なのに、こんなにもあっけなくなかったことにされるなんて……。
愕然としていたら無性に喉の渇きを覚えて、私は自分の分のカフェラテを一口含んだ。
甘くほろ苦い味わいが口の中に広がり、次第に心は落ち着きを取り戻していく。私は改めて父に向き直った。
「……事情って何?どういうことなの?」
事情とやらを訊ねると、眉間に皺を寄せた父が重くため息を吐いた。
「ああ。実は……貴子に一向に子供ができないんだ。どうやらそういう体質のようで、困ったことに私の次がいないんだよ……。一旦は外の人間に任せるにしかないんだが、ずっとというわけにはいかないだろう?十七代、美濃の家で営んでいる菊乃屋を、私の代で他に渡すわけにはいかないんだ。だから将来的には美濃の人間に菊乃屋は継がせたい。萌黄、おまえには美濃家に戻ってほしいと思っている」
(私が、美濃の家に戻る……?)
そんなこと思いもしていなかった。
思考が追いつかずに固まっていると、父が少し慌てたように付け足してくる。
「ああ、違う。別に萌黄に菊乃屋を継いでほしいと思っているわけじゃないんだ。今の仕事もあるだろうからね。ただ、美濃家の娘として、久高くんと結婚してほしい。そして子供ができたら、一人を菊乃屋の後継としてもらい受けたい。久高くんは優秀らしいから、彼との子供ならさぞ出来がいいだろう。一族の者もそれで納得するさ」
私ではなく、いずれ生まれてくるかもしれない孫を後継者に……。
まるで氷をそのまま胃に流し込まれたかのように、お腹の奥が急速に冷えていくのを感じた。