腹黒御曹司の一途な求婚
「……どうした?」

 それっぽい雰囲気を遮られて、声に少し戸惑いが乗っている。ちょっと申し訳ないと思いつつ、私はおずおずと切り出した。

「あの……さっき、貴子さんと話してたでしょう?何を話してたの?」

 貴子さんの名を口に出した途端、蒼士が思いっきり顔を顰めた。

「……それ、今聞きたい?」
「う、うん。気になっちゃって。私のことを話してたの?」

 蒼士は話したくない様子だったけれど、気になるので食い下がる。すると心底嫌そうな顔をしながら、渋々教えてくれた。
 
「……大体はそうだね。聞くに値しないことばかり喚いていたから聞き流していたけど。あとは……萌黄じゃなくて私と付き合わないかって」
「えっ、えぇ?!」

 私のことを悪く言っていることは想像がついていたけれど、まさかそんなことを言っていたなんて。
 それ以前に既婚者なのに……父と上手くいっていないんだろうか。

「な……なんて答えたの?」
「そんなのありえないってはっきり言ったよ。それでも煩かったところにちょうど駿が来たから、あいつに押しつけといた」

 伊勢谷くんは、急に連れ去られた私のことを心配して蒼士に知らせに行ってくれたんだろう。それなのに厄介ごとに巻き込んでしまったようで申し訳ない……今度蒼士と一緒に謝らないと……。
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