腹黒御曹司の一途な求婚
「……お父さんのことは、まだ許せないかい?」
「…………」
「家族のことに首を突っ込むのは野暮だと理解はしているんだが、同じ娘を持つ父親としては思うところもあってね……」

 総支配人の目尻に刻まれた皺が一段深くなった。憐れむような眼差しを向けられ、さらに居心地が悪くなる。
 なんだか嫌な予感が……。

「一度、お父さんと腰を据えて話をしてみてはどうだろう?ゆっくり話をしてみたら、誤解も解けるかもしれない。私も仕事で心掛けているのだが、相互理解に会話は欠かせないからね。遠ざけてばかりでは、よくない。今週末はお父さんも予定が空いているそうだ。是非そこで話をしてみるといい。美濃くんの予定はどうかな?」

(……そういうことなのね)

 今日ここへ呼び出された意味がようやく分かって、深々とため息をつきたくなった。

 総支配人の同情を引くことで、父は協力を取り付けたんだろう。
 そうまでして私を引きずり出そうとするなんて。
 
 それほど菊乃屋の経営は切羽詰まっているんだろうか。美濃家に後継者がいない今、唯一未来の跡継ぎを産む可能性のある私を手放す気はない、というのもあるのかもしれない。

(もう、関わりたくないのに……)
 
 けれども勤め先のトップからこう問われて、一従業員が否と言えるはずもなく……。
 店の手配はこちらでするからと言われ、私は力なく頷いて総支配人室を後にした。
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