腹黒御曹司の一途な求婚
「当行は御社への融資はリスクが大きいと判断しています。分かりやすいようにあえて債務者区分を申し上げますが、当行において御社は、『要注意先』と分類しています。今回ご相談いただいている融資は、子会社であるカミエダウェディングに対してのものですが、カミエダウェディングに関しても同様です。まずその点で、御社に対する融資審査のハードルが非常に高いことはご理解いただけますか?

 それでも、菊乃屋でもまだマシな小売事業であれば、こちらとしても検討の余地はありましたが。買収してからも一向に立ち直る兆しのない、赤字のウェディング事業への融資なんて、本気で通るとお思いですか?しかもこの期に及んで、新しい式場とは。どれだけ赤字を垂れ流せば気が済むんでしょう」

 容赦ない口撃の嵐に、父が口を挟む隙はまるでない。
 かなり辛辣だけれど、理路整然とした説明を横で聞いていた私は、少ししんみりとしていた。

(菊乃屋の経営状況って本当によくないんだ……)

 銀行は、融資した資金が返済されない――いわゆる貸倒れ――のリスクを避けるために、融資先の企業に対して、大きく分けて五段階のランク付けを行っている……らしい。

 この間、銀行を舞台にしたドラマを見ていた時に、蒼士が素人にも分かりやすく大まかに教えてくれた。

 一番上のランクである『正常先』は、企業の財務状況に特段問題ない、要するに黒字企業が基本的には分類される。
 『要注意先』とは、『正常先』の次のランク。業績が低調気味で財務状況が芳しくない赤字企業が分類されるとのこと。

 ランクが上から二番目と言っても決して良くはなく、融資の際に金利が高くなったり、貸付条件が厳しくなったりするらしい。
 
 そして『要注意先』より下のランクに分類された企業に関しては、銀行が融資を行うことはまずない。
 「晴れの日に傘を貸して、雨の日に取り上げる」という言葉もある通り、銀行の貸付は業況によってかなりシビアに判断されている。
< 146 / 163 >

この作品をシェア

pagetop