腹黒御曹司の一途な求婚
「……私は……私は悪くないわ……当然の権利よ……なのにどうしてこんな……あんただけ、幸せになろうっていうの……?そんなの……許されないわよ……」

 地を這うような声が聞こえて振り返ると、鬼の形相をした貴子さんが私を睨みつけていた。

「私は何も悪くない……なんで私ばっかりが不幸にならなくちゃいけないの……」
「貴子……おまえは何を言って」
「うるさい!親の会社のためにこんなジジイに金で売られて……だからあんたも私と同じだけ不幸にしてやろうと思ったのに……なのに薄汚いジジイの娘のくせに、あおうみの御曹司と結婚なんて……許さない……寄越しなさいよ!この人も、あんたの幸せ全部を私に寄越しなさい!!あんたが幸せになる資格なんてないのよ!!」

 発せられた怒声の大きさに、憎悪に塗れた表情に圧倒され、思わず身がすくんだ。
 クレーム対応は何度も経験したけれど、こんな煮詰まった怨嗟の念を向けられたことは人生で一度もない。

 ギリギリと歯軋りをしながら私を睥睨する瞳には、私への憎しみが渦巻いていた。それほどまでに恨みをもたれていたことに驚きを隠せない。

(でも――)

 貴子さんは親に売られたと言っていた。親子ほど歳の差のある男性に無理矢理嫁がされたのだとしたら、恨みたくなる気持ちも分かる。
 けれどもその恨みの矛先は、私に向けられるものじゃない。理不尽に負けたくはなかった。
 私は恐れをなす自分を奮い立たせて、キッと貴子さんを睨み返した。
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