腹黒御曹司の一途な求婚
 売上が伸び悩む最たる理由は、数ヶ月前この近隣にオープンした会員制オーベルジュの存在。
 そのオーベルジュは宿泊こそ会員権を有するお客のみが利用できるのだけれど、併設するフレンチレストランは会員権の有無に関わらず誰でも利用できるので、かなり盛況しているらしい。
 
 オーベルジュの料理長を務めるのは、パリの名だたる店で修行を積み、フランス料理の国際コンクール「ボキューズ・ドール」の本戦で三位に輝いたという輝かしい経歴を持つ実力派シェフ。しかもバラエティにも時々出演していて話題性も抜群。
『プレジール』は、完全にそちらへお客を取られてしまっている状況だった。
 
 そもそもの根底には、プレジールが他店に比べて特色を出しきれていないという深刻な問題があったりもするのだけれど、そんなものは一朝一夕で改善できるはずもなく……。今は小手先でできることで、売上を地道に積み上げていくことくらいしかできなかった。

(一番手っ取り早いのはやっぱりドリンク類の売り上げ強化だよねぇ。羽田さんも周知してくれてるだろうけど、私からも促すとして……)

 思案しながら予約者リストに目を通し、お客様の属性を見て担当スタッフを割り振っていく。
 
 『プレジール』の給仕は担当テーブル制。一つのテーブルを一人のスタッフが受け持ち、接客を担当する。
 六年のホテリエ経験に基づく勘から、ドリンクを気前よく頼んでくれそうな予感がするお客様にはアルコール類の知識が豊富なスタッフをあてがっておいた。
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