腹黒御曹司の一途な求婚
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(これで一安心かな……)

 美濃社長と美濃貴子にはそれぞれ釘を刺しておいた。美濃貴子においては罪を暴露されて、今やそれどころではないはず。

 萌黄があの醜悪な人間共と拘うことはもうなくなる。苦悩する彼女を間近で見ていたからこそ、その感慨もひとしおだ。

 目的地まで車を走らせながら、俺は今日までの経緯を思い返していた。
 
 騙し討ちのように父親から呼び出されたと萌黄から相談を受けたのは三日前のこと。
 詳しく話を聞いてみると娘を利用して融資を引き出そうとしているというのだから、あまりのクズさ加減に我を忘れて怒り狂いそうになった。

(だが好機だった)

 今日のあの場は、俺の手で直接あのクズ共に引導を渡せる、絶好の機会だった。

 あの害悪な父親もさることながら、萌黄を異常なほど敵視している美濃貴子については、早めに排除しなければとかねてより思っていた。
 策を練っていたところへその機会が訪れたのだから、まさに渡りに船といったところ。

 それにあの女は、俺にとっても厄介な存在だった――

 ツインタワーで初めて顔を合わせた時から嫌な予感はしていた。
 あの女が俺を見る目は、義理の娘の恋人を品定めするというより、明らかに男を意識したものだった。

 しばらくすると、どこから嗅ぎつけたのか仕事用のメールアドレスにあの女からの連絡が来るようになり……予感は正しく的中していた。

『今度食事に行かないか』
『会って話がしたい』

 執拗に送られてくるメールの数々に、俺の地雷感知器はけたたましい警鐘を鳴らしていた。培われた過去の経験が「この女はヤバい」とそう叫んでいた。
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