腹黒御曹司の一途な求婚
 今日の反応を見る限り、萌黄の父親は横領に関与していないようだった。
 美濃貴子が裏で糸を引いていたかは定かでないが、金を受け取っていた以上、あの女も調べを受けるのはまず間違いない。

 これでしばらくは、奴らも己の身辺整理に忙殺されるはずだ。俺たちの周囲をうろつくこともないだろう。
 もちろん今後、奴らがどう動くかは引き続き注視をしておく必要はあるが。

(やっと萌黄は、あいつらを忘れて未来を見据えることができるはずだ)

 そう簡単に吹っ切れるものではないことは分かっている。だが、時間と共に傷は癒えるものだ。
 その間も俺が萌黄の傍にいる。彼女を支えて、守っていく。未来永劫ずっと――

 ふと懐に収めた小箱の存在を思い出し、隣の萌黄に気づかれないよう小さくて息を吐いた。
 あの二人と対峙した際は緊張など微塵も感じていなかったが、この後のことを思うと緊張で胃がねじれそうだ。

 恐らく、多分……半分願望込みだが、断られることはないと思ってはいるものの、それでもやはり完全には不安を拭い去ることはできない。

(喜んでもらえるといいけど……)
 
 彼女の笑顔を思い浮かべながら、俺は目的地へ向けてハンドルを切った。
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