腹黒御曹司の一途な求婚
 食後は庭園を散策することにした。
 つるバラのアーチを抜け、曲がりくねった石畳の小道を歩く。

「見てみて、これ食べれるんだって」
 
 ビオラやスミレなどの春の小花が咲き乱る傍らにはポタジェもあり、ハーブや葉野菜が植わっていた。

「本当だ。レストランで使用しているらしいから、今日のディナーで出てくるかもな。もうお腹すいた?」
「もう。そういう意味じゃないってば」

 ポタジェの横に立てられた小さな看板を読みながら、揶揄い口調で蒼士が言うので、下唇を突き出して抗議しておいた。

 すると彼はニヤリと悪戯めいた笑みを浮かべた。

「……そういう可愛い顔してると、キスしたくなるんだけど」
「なっ……こ、ここはダメ!」
「分かった分かった。部屋まで我慢する」

 それって部屋に着いたらキスするってことですか……?いや、キス自体はもう何度もしているのだけれど、そんな風に宣言されると意識してしまう。
 不埒な予告にアワアワしていると、「もうちょっと歩こう」と言って、私の腰に手を回した彼が歩くように促してくる。

 気もそぞろになりながら、庭園の奥へと進んでいく。蒼士がおもむろに口を開いたのは周囲に人がいなくなったタイミングだった。
 
「今日はごめん」
「へっ?」
「……萌黄の断りなく、美濃夫人を呼び出して」
「あぁ……」

 バツが悪そうに眉尻を下げている姿は、先程父や貴子さんを舌鋒鋭く追及していたものとは似ても似つかない。
 私の機嫌を窺うようにしているのが可笑しくて、私は苦笑しつつ首を横に振った。
 
「ううん。私も、どうして貴子さんに目の敵にされてるのか疑問に思ってたから……」

 その理由は到底納得できるものではなかったけれど、知れてよかったとは思っている。
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