腹黒御曹司の一途な求婚
「そういえば……貴子さんが不倫をしているってどうして分かったの?」

 ついでに気になっていたことも聞いてみることにした。

「ああ、一度見かけてね。美濃夫人と菊乃屋の専務が一緒に歩いているのを。だから人を使って調べさせたんだ。美濃夫人は萌黄を一方的に恨んでいるようだったから、用心も兼ねて弱みを握っておこうと思って」

(弱み……)

 発想が物騒なんですが。
 笑みがちょっと引き攣るのを感じつつ、とりあえず相槌を打っておく。

「じゃあ、その……横領のことも調べたの?どうやって?」
「色々とね。でもうちの顧客だったら金回りのことは大抵分かるから」
「な、なるほど……」

 黒いオーラが見え隠れする笑みに、悪いことなんてできないんだなぁ、としみじみ思った。

「とにかく美濃社長も夫人も、当分は萌黄に近づいてくることはないと思うよ。それどころじゃないだろうから」
「……そうだね」

 小高い丘を登ると、レンガ屋根の小さなガゼボがあった。周囲には白い絨毯を敷いたように可愛らしいシロツメクサが咲き綻んでいる。
 少し歩き疲れたこともあって、ガゼボの下に設置されたベンチに腰かけた。

 頬を撫でる春風が心地いい。
 新しい一歩を踏み出した今、心はこの春の陽気のようにぽかぽかとしていた。

「蒼士、ありがとう。私、蒼士がいなかったら、ずっと臆病なままだった。お父さんから都合よく扱われても、きっと仕方ないって諦めてたと思う。蒼士が私に勇気をくれたの。だから、ありがとう」

 過去に縛られて、踏み出せなかった私に、いつも彼は寄り添ってくれた。辛い時はずっとそばにいてくれた。
 どれほど彼に救われたんだろう。何度感謝を伝えても、伝えきれない。
< 158 / 163 >

この作品をシェア

pagetop