腹黒御曹司の一途な求婚
(たぶん、"あの"久高くんだよね……)

 同姓同名の別人とは思えなかった。
 だって彼は、あまりにもこの地に馴染みがありすぎる。
 
 生まれも育ちもこの街。実家は、あのベリが丘三丁目に堂々たる邸宅を構えている。
 おまけに、彼の家が経営する会社――押しも押されぬ大企業グループのトップに君臨している――の本社も、確かこの街にあったはず。後継者である彼がそこで働いていることは想像に難くない。 そこまで考えて、私はまた予約者リストに目を落とした。
 予約は二名、用途は……書かれていない。

(ま、普通は彼女とだよね〜〜〜)

 それどころか奥さんだったりするかもしれない……なんて思うと、机に突っ伏して叫び声を上げたい気分に駆られる。胸の奥では、淡い恋の思い出がビリビリに破かれていた。

 正直に白状すると、久高くんは私の初恋だったりする。
 カッコよくて少し大人びていて、みんなの人気者だった「久高くん」。そんな彼がふとした拍子に私に向けてくれる、少年らしい屈託のない笑顔が好きだった。
 
 みんなに見せる笑顔とは少し違う気がする、クシャッとしたはにかみ顔。もしかして私にだけ向けてくれているのかも?なんて思い始めたら最後。急速に恋に落ちていた。
 結局転校するまで彼から告白されることはなかったので、それは恥ずかしすぎる立派な勘違いだったのだけれども。
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