腹黒御曹司の一途な求婚
 私は性懲りもなくもう一度、久高くんの端正な寝顔を覗き込んだ。

 昨夜はきっちりと撫で付けられていた前髪が、さらりと下りて額を撫でている。どこか近寄りがたい硬質な美貌も今は幼く見えて、むしろ可愛らしさすらある。

 私の人生史上一番と言っていいほどのカッコいい人。
 美しすぎて、ジッと見つめているとなんだか恥ずかしくなってくる。

 両手で顔を覆い隠しながら、それでもこの眼福な光景を目に焼き付けないのはもったいない気持ちになって、指の隙間から久高くんの顔をガン見してしまう。
 
(久高くん、後悔するかな……)

 昨夜の久高くんはそれはもう、したたかに酔っ払っていた。ぐでんぐでんの典型的な酔い潰れ人間そのもの。
 
 もしかしたら私をベッドに引きずり込んだことも覚えていないかもしれない。私を抱いたのだって誰かと間違えていたからなのかも。

 久高くんのことを思えば、私はきっぱりと拒絶するべきだった。
 そうせずに彼を受け入れたのは、彼が私を求めてくれたことが嬉しかったから。まったくもって、軽率だったとしか言いようがない。
 
 起きて開口一番そんなはずじゃなかった、なんて言われたらどうしよう……。
 不吉なことを考えると胸がぎゅうっと締め付けられた。とてもじゃないが平静を保てる気がしない。
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