腹黒御曹司の一途な求婚
 次々と出て来る料理はどれもとても美味しくて、私はどれも満足げに舌鼓を打っていた。
 この店はカウンターに設置された鉄板を使ってシェフが目の前で食材を焼き上げてくれる。
 黒毛和牛の分厚いサーロインのお肉がすぐそばで美味しそうにグリルされていくのを目を輝かせて見ていると、久高くんが「そういえばさ」と声を発した。

「美濃さんって恋人とかいるの?」
「えっ、ううん。いないっていうか、今まで一度もいないというか……」
「そうなの?」

 何を聞かれるかと思えば……。
 私は自嘲気味に笑って首を横に振った。

 シャンパンに続いて白ワイン、赤ワインと飲んで気持ちよく酔っ払った脳は、言わなくてもいい余計なことを口走ってしまったことにも気がつかない。

 隣を見やると久高くんは驚いたように目を瞬かせていた。

(そんなに驚かなくてもいいじゃない。どうせモテませんよーだ)

 何も言われていないのに捨て鉢な気分になって口をツンと尖らせると、久高くんが形の良い唇に弧を描いた。

「美濃さん可愛いから、絶対彼氏いると思ってた」

 私は目をパチクリとさせた。
 今、可愛いって言った……?

 カアッと頬が熱くなる予感がして、私は急いでお冷やを口に含む。
 冷たい水が沸き立ちそうになった頭も冷やしてくれて、私の思考はなんとか冷静さを取り戻した。
 
 そんなのお世辞に決まってる。勘違いしちゃいけない。
 
 男の人から可愛いなんて言われるのは初めてで、しかもとんでもなくカッコいい久高くんから言われたせいで一瞬舞い上がってしまった。
 社交辞令を間に受けそうになった自分が恥ずかしくて、私は久高くんに話を差し向けることにした。
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