腹黒御曹司の一途な求婚
 今日、野堀さんのお手本のような接客を受けて、改めてお客様から選ばれるレストランになるにあたって『プレジール』が強化すべき点はホスピタリティの部分だなぁ……と実感した。

 もちろん『プレジール』のサービスも決して悪いわけじゃない。
 でも、アスプロ東京が掲げる「極上な体験」を体現するような感動的なサービスを提供できているかと問われたら、自信を持って頷くことはできなかった。

 スタッフの皆は既に頑張ってくれているけれど、まだまだ伸びしろはあると思っている。
 私はどうにかしてその伸びしろを引き出したかった。

「とりあえず研修を増やしてはみてはいるけど、もっとスタッフの皆のモチベーションを上げられたらなぁと思ってるんだよね。それで、レストランサービス技能士って資格があるんだけど、その検定に合格したらインセンティブが貰えるっていう制度を作ろうと思ったの。けど上司に試算が甘いって却下されちゃって……」

 久高くんが真剣に聞いてくれるので、つい口が滑って目下の悩みのタネまで話してしまった。
 
 先輩のアシスタントマネージャーからはいいねと太鼓判を貰ったインセンティブのアイデアだったけれど、前例がないということもあって、上司からはちゃんと費用対効果のデータを出さないと、予算を引き出すのは難しいと差し戻されていた。

 要は、経理を説得できるだけの材料をもってこいというわけだ。

 けれどなかなか説得力のあるデータを探し出せず、折角のアイデアは暗礁に乗り上げそうになっている。
 いや、諦めるつもりはないのだけど、いかんせん他の業務もあるのでなかなか手がつけられないというか……。

 愚痴を聞かせるなんて良くないと思いながらも、久高くんが聞き上手なせいでついつい話し過ぎてしまう。
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