腹黒御曹司の一途な求婚
 うんうん、と相槌を打ってくれていた久高くんだったけれど、効果の試算云々の話になったところで彼の瞳に怜悧な光が宿った。

「その試算ってどうやって出した?ああ、話せる範囲でいいんだけど」
「え?」
「俺、そういう数字出すの得意だから、よければ力になるよ」
「え、えぇっ?いや、そんな、悪いよ」

 確かに久高くんは銀行員だから、私ごときが頭を悩ませている試算なんて訳ないのかもしれないけども……。
 でも、仕事上で一ミリも関わりのない久高くんに助けてもらうのは流石に気が引ける。

 顔の前で手を振って即お断りするも、久高くんは笑みを崩さない。

「前に似たような事例のレポートを読んだ記憶があるから、後でメールを送るよ」

 彼の中で私を手伝うことはもう確定事項になっているらしい。
 実際行き詰まっていたところに助け船を出してもらえて、それに縋ってしまいたい気持ちがむくむくと湧き上がってくる。

(いや、ダメダメ!)

 この笑顔に押し切られたいと、揺らぎかけた心に鞭を打って、自分の腑抜け具合を叱咤する。
 今日、私が何のために彼の誘いを受けたのか、忘れちゃいけない。

「ううん、気持ちは嬉しいけど。自分でやるから大丈夫」

 彼の好意を無下にするのは胸が痛む。でも久高くんとの関係は今日で終わりにするのだから、彼の手を取ってはいけない。
 私がはっきりそう言うと、久高くんはもの悲しげに眉を下げて笑って、窓の方を指差した。

「せっかくだから、ちょっと外で話さない?萌黄の返事、ちゃんと聞かせてほしい」
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