腹黒御曹司の一途な求婚
 私が家を出て行く日。
 父は再婚相手となる貴子さんをわざわざ紹介してくれた。
 
 "少し年下"と称していた貴子さんはかなり若く、そして美しかった。
 儚げな印象だった母とは少しタイプが違ったけれども、父が貴子さんの美貌に惹かれたのだということは容易に想像がついた。
 
 聞けば貴子さんは大学を卒業したばかりの二十三歳で、四十七歳の父よりも私の方が歳が近かった。
 そりゃあ、私の存在を疎ましく思うのも当然だろう。

 私の心がまた諦念で色濃く塗りつぶされ、視界が曇った。
 仕方がない、と無理やり自分を納得させるように何度心の中で呟いたことだろう。
 でもそんな胸中を押し殺して、私は笑顔を作る。父が望む、祝福の笑みを。

『結婚おめでとう。元気でね』

 お父さん、とはもう呼べなかった。
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