腹黒御曹司の一途な求婚
「ど、どうして、そんな……」

 戸惑う私の手を、久高くんはそっと掬って両手で包み込んだ。
 寒空の下でも温かいその手によって、ここへ来るまでに固めていた私の決意が氷解しそうになる。

「萌黄が好きだから。萌黄が困ってたら手を差し伸べてあげたいし、力になりたい」

 彼の言葉がまっすぐ、私の胸に突き刺さる。熱情を孕んだ眼差しに射貫かれて、心が容赦なく揺さぶられた。

「なんで、久高くんはそんなに私のことを……」

 喉の奥から熱いものがせりあがりそうになって、堪えたために声がわなないた。

 彼はどうしてこんなにも私を想ってくれるのだろう?
 実の父親に捨てられたくらいだ。私なんて、何の価値もないのに。

 戸惑いがちに訊ねてみれば、久高くんはうっすら頬を染めて面映そうに目尻を下げた。
 
「初恋なんだ、萌黄が」
「……え?」
「子供の頃、ずっと好きだった。……初等部の、三年の頃だったかな。クラスの女の子の間で無視が流行ってさ。小山って覚えてる?そいつが他の子に命令して、日替わりで誰かを無視したりしてたから、クラスの空気が結構殺伐としてて……」

 そんなことがあったかも……?
 女王様タイプの女の子の姿が頭の中にうっすらと浮かび上がり、私は曖昧に頷いた。
 
「他の女の子は小山の言いなりだったんだけど、萌黄だけはそんなことしないってキッパリ断ってたんだ。それがすごいカッコ良くてさ。それから萌黄のことが気になって、気付いたら好きになってた」
「そ、そうなの……?」

 その辺りは全然記憶にない……。
 ただそれよりも、久高くんがかつて私を好きだったという事実に衝撃を受けていた。
 
 ということは、お互いに好意を告げていなかっただけで、私たちは昔両想いだった……?
 そんなまさか……。
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