腹黒御曹司の一途な求婚
「じゃあ、次のデートはいつにする?」
 
 船が再びベリが丘ふ頭に停泊し、私たちは野堀さんに見送られて特別貴賓室を後にした。
 下船すべく船内を歩いていると、隣を歩く久高くんが不意にそんなことを口にしてくる。

「つ、次?」

(待つって言ってなかったっけ……?)

 いや、そもそも待ってもらうことすら申し訳ないのだけれど。
 つい数十分に言っていた言葉がいつの間にか変容していて、私は目を白黒させた。
 見上げた久高くんは笑顔のままだ。笑顔は笑顔だけど、有無を言わさぬ感じがヒシヒシと伝わってくる。

「萌黄の気持ちが整うのを待つのは本当だけど、ただ待ってるだけだと気持ちも変わりようがないだろ?だからデートしよう」
「えぇっと……」

 納得できたような、できないような……。
 
 というかそれって付き合ってるのと何が違うんだろう?
 私が彼に相応しくないことは分かりきっているのだから、初めから断るべきでは?
 でもそうすると彼を傷つけてしまうし、私自身は――
 
 と答えの出ない問答を自分の中で繰り返していると、不意に手を取られた。
 持ち上げられ、目の前でギュッと指を絡められる。男らしく骨張った指の感触に、キュンと胸が跳ねた。

「デートっていっても手を繋ぐ以上のことはしない。友達だと思ってくれてもいい。ただ、今の俺のことをもっと知ってほしいんだ。それで俺がちゃんと萌黄を幸せにできる男か、萌黄自身で見極めてくれないか?」

 見極めるだなんておこがましい。
 でも見上げた彼の瞳に浮かぶひたむきさに心を揺り動かされてしまって。
 後ろめたい気持ちを抱えながらも、私は繋がれた手にキュッと力を込めた。
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