腹黒御曹司の一途な求婚
「おまえの噂、相変わらずよく聞こえてくるよ。まあ、半分くらいはやっかみだけど」
「そりゃそうだろ。だから人事も俺で新しい評価制度の是非を試してるんだろうしな。言いたいやつには言わせとけばいいよ」

 元々の出自に加えて、最年少課長なんて肩書を添えられた己の存在が、良い意味でも悪い意味でも注目されているのは自覚している。

 フロアが違うとはいえ同じ営業本部に属する駿が、俺に関する話を多く耳にするのも不思議ではない。

 年功序列から成果主義へ、行内の人事制度が刷新されたことで、制度上二十代でも管理職に就くことができるようになった。
 俺たちが入社した年に新制度が発表され、二十代管理職の第一号が俺。

 あからさまな御曹司への忖度だと行内は騒めいていたが、実際その通りだろう。
 行内人事の若返りと『不良債権』と化した人員の整理を目論んでいた人事部が、俺の入社に合わせて新制度を発表したのは明白だった。

 出る杭は打たれ、早すぎる出世は歓迎されない。

 そんな閉塞的な環境を打破する新制度に、俺という存在はさぞおあつらえ向きだったことだろう。

 グループ社長の息子、創始家一族の次期後継者。
 異例の人事であっても、その理由で周囲は納得せざるを得ないのだから。
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