腹黒御曹司の一途な求婚
「そういやさ。おまえ、藤井重工のお嬢さんと別れたんだって?また狂暴化したのか?」

 生ハムを一口食べ終えたところで、駿がニヤニヤしながらそう切り出してくる。

(今日こいつに呼び出されたのは、これが理由か……)
 
 本題が早すぎやしないか、と思いはするものの、色々と世話になった駿には事の経緯を知る権利もあるだろう。
 気は進まないが、仕方なく俺は一ヶ月ほど前にアスプロ東京のレストランで起こった騒動を話して聞かせることにした。
 
 顛末を話し終えると案の定、駿は腹を抱えて笑い出した。ムカついたので机の下で奴の脛を蹴り飛ばしておく。

「いってぇ!いやしかし、さすがモンスター製造機だな。今回も例に漏れない」

 未だ笑いが収まらない様子の駿に、俺は露骨に顔をしかめる。

「その呼び方やめろ」
「だって事実だろ」

 悔し紛れの反論はバッサリ切り捨てられた。実際に今回も遺憾ながらモンスターを製造してしまったので、ぐうの音も出ない。

 認めたくはないが、俺は女運が悪かった。

 萌黄が転校したショックからようやく立ち直れた高校二年生の頃、初めての彼女が出来た。が、その彼女はいつの間やら粘着ストーカーに変貌していた。

 夥しい数のメールと電話が昼夜問わず寄越され、学校のみならず自宅にまで付きまといをされる日々。警察に相談して表沙汰にすると相手の親に抗議をしたら、彼女は逃げるように転校していった。

 この一件で懲りて、しばらく恋愛はしなかった。
 
 だが大学四年にもなると、友人たちにも大抵恋人がいて、俺もそろそろ彼女を作ってもいいかもしれない、と軽い気持ちで告白してきたゼミの同期と付き合ったのだが……。
 あれは本当に悪夢だった。

 ホラー映画さながらのメンヘラ的言動の数々は今思い出しても身の毛がよだつ。
 しまいには思い込みから大学構内で刃傷沙汰を起こし、彼女は退学処分となった。その後は精神病院に入院したらしい、と風の噂で聞いた。
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