腹黒御曹司の一途な求婚
 彼女たちが暴挙に出たのは、「不安だったから」らしい。
 
 確かに二人は俺を束縛したがった。

 他の人と一言も話さないでほしいとか、私以外の連絡先は全て消去して誰とも連絡を取らないでほしいとか、いっそのこと監禁したいだとか、そんな常軌を逸したお願いを突きつけて、独占欲を露わにしていた。

 普通に考えて無理に決まってる。というか不安だからといって、何をやらかしても許されるわけではない。
 
 この強烈な恋愛遍歴(たったの二回)を傍目で見ていた駿は、『イケメンってマジで人を狂わすんだな……』とか呟きながら、俺に『モンスター製造機』なんて不名誉極まりない称号を授けてくれた。
 失礼すぎるが、否定しきれないところがまた虚しい。

 二度の失敗を経て、恋愛は懲り懲りとその後は仕事に邁進していたのだが、家のこともあり、結婚しないという選択肢はなかった。
 結婚どころか恋人すらいる気配がなくひたすら仕事に打ち込む息子に業を煮やした両親が縁談を持ってきた時も素直に受け入れた。

「しかし、お祓いも意味なかったな。わざわざ車で三時間もかけて行ったのに」
 
 どこからか見合い話を聞きつけた駿が、厄除けで有名な神社で祈祷を受けようと言い出したのは、見合いのひと月前のことだった。内容は、もちろん女難で。

 普段ならくだらないと一蹴するところだが、「おまえ、またモンスターを生み出したいのか?」と言われては閉口するしかなかった。なにせ心当たりがありすぎる。

 そんなわけで早朝から高速をぶっ飛ばして車で件の厄除け神社へ向かい、ご祈祷ついでにお札とお守りも購入した。
 気合十分――というよりはストーカーでもメンヘラでもない、ごくごく普通の女性であることを祈りながら見合いに臨んだのだが……まあ、その祈りが神に届くことはなかった。

 だが、決して神は俺を見放したわけではなかったらしい。
 見合いの結果は散々だったが、同時に素晴らしい出会いを授けてくれた。
 むしろこっちが本命だったのだと思う。

 彼女の楚々とした笑顔が思い浮かび、意図せず頬が緩む。
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