腹黒御曹司の一途な求婚
「言い訳させてもらうとさ。最初はちゃんとレストランを予約してたんだよ。でもそいつ……幸人って言うんだけど、幸人が最近ずっと会食続きだったから、外で食べるのは嫌だって急に言い出してさ。それで俺の家にするかって話になったんだ。それが昨日の話だったから、直接言った方が話が早いって思って。あ……今日は絶対何もしないからそこは安心して」

 真摯な態度で断言されて、私は逆に居た堪れなくなった。私だけがあの夜を強く意識しているような気がして。

 でも久高くんのある言葉に引っ掛かりを覚えて、私はおもむろに顔を上げた。

「そうしたら久高くんのお家でランチするってこと?」
「そうそう。もう準備は粗方できてるから」
「…………もしかして久高くんが準備したの?」
「他にいないでしょ」

 瞠目する私に、久高くんが噴き出す。
 なんてことない様子で言ってのけるその姿に、喉の奥からヒーッと小さな悲鳴が漏れ出た。

(りょ、料理もできるの……?)

 この人できないことってないんじゃないかな……?
 そんな気持ちで慄きながら見上げると、久高くんがクイっと繋いだ手を引いた。

「このまま行ってもいい?」

 ストレートな誘い言葉。久高くんはいつものようににっこりと微笑んでいる。
 
 私は自分の足元を見た。
 甲の部分にパールのモチーフが飾られた、ベージュツイードのパンプス。少しでも可愛く見えるようにと思って選んだもの――
 コートの中に着ている洋服も同じ。白のリブニットに、ウエストがレースアップになっているフレアスカートを合わせて、女の子らしさを全面に出している。彼に意識してほしいから……。

 彼の家に再び行くことを躊躇する気持ちが全くないとは言えない。
 
 けれども迷ったのは、一瞬だけ。
 コクンと小さく頷いて、また私たちは歩き出した。
< 79 / 163 >

この作品をシェア

pagetop