腹黒御曹司の一途な求婚
 アスプロ東京の料飲施設は、創作フレンチ、懐石料理、中国料理、オールデイのビュッフェレストランの四つのレストランに加え、メインロビーに併設されたバーラウンジとオーシャンビューバーがある。
 
 これら六つの料飲施設を統括するのはレストラン部門の総責任者であるマネージャー――私の直属の上司だ。
 その下にいるアシスタントマネージャー……つまり私は、いわばSV(スーパーバイザー)のような立ち位置で、各レストランの運営管理、スタッフの雇用、育成管理等々の業務を担うことになる。
 
 担当施設は先輩と分担する予定で、私の担当は創作フレンチ、懐石料理、そしてバーラウンジの三つとのこと。
 
 挨拶は担当施設だけでなく全ての施設に対して行うので、これから営業時間前のオーシャンビューバーを除く五つの施設に赴く予定だ。
 
 着任日の今日は他に予定もない、というかはっきり言って暇なので、ついでに他も色々見学しようかなぁ、なんて考えが不意に頭をよぎる。
 開店直前の今の時間帯はバタバタしてるだろうし、そんなタイミングでノコノコ挨拶に行っても迷惑がられること間違いなし。うん、そうしよう。

 私は踵を返して、ホテルのエントランスから順に見ていこうと決めたのだった――が、この思いつきは完全に失敗だった。
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