腹黒御曹司の一途な求婚
「いや、大丈夫。今日使うのは半分くらいにしようかな。和風サラダにしようと思うから、豆腐とひじきと豆で和えてもらって……」
「な、なるほど……」

 手元のウサギの餌がおしゃれに生まれ変わるための道筋は用意されたものの、私の脳内は尚も混乱していた。

(い、いや……混ぜるだけだよね……豆腐と、ひじきと……あと、えっと……)

 お手上げだった。

「あの……続きをお願いしてもよろしいでしょうか……?」
「はい、仰せのままに」
 
 恭しく頷いているが、完全に笑っている。取り繕うことすらやめたようだ。
 久高くんは優しいけれど、たまにこうやって意地悪だったりもする。

 お察しの料理スキルが露呈して、私は今すぐ穴に入って地中深くに埋まってしまいたい衝動に駆られていた。
 情けなさすぎて久高くんの目を見れずに項垂れていたところに、不意に目の前に影が差す。顔を上げると久高くんの顔がすぐそばまで迫っていて。

(……ッ?!)

 ハッと息を呑む。無意識のうちに体が強張った。
 反射的に目を瞑ると、久高くんの指が私の頬に触れて――そのまま離れていった。

「髪の毛食べてた」
「あ、ありがと……」

 私は今、何を期待していたんだろう……?
 自覚した瞬間、体中の血液が沸騰したように顔が熱くなった。
 いっそ今ここで気絶したい、と心の中でのたうち回っていたら、久高くんが私の耳元に顔を近づけてくる。

「リビングで待ってて、萌黄?」

 鼓膜を震わす艶声が心臓に悪すぎる。
 コクコクコクコク、と壊れた人形のごとくひたすら頷いた私は、逃げるようにキッチンを後にした。
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