腹黒御曹司の一途な求婚
 実際、会ってすぐ邪気のない笑みを向けられて、私の肩の力も抜けた。もしかして快く思われていないかも、という懸念があったので。

「ごめんね、萌黄ちゃん。場所、変更してもらっちゃって。マジで一ヶ月くらいずっと外食続きだったから、さすがに胃がもたれててさ」

 廊下を歩きながら和泉さんが胃の辺りをさすって苦笑いを浮かべた。

「いえ。むしろお忙しいのに、わざわざお時間をとっていただいてありがとうございます」
「いやいや、俺も色々聞きたかったから」

(い、色々って何……?)

 和泉さんの意味深な含み笑いに、私はなぜか袋小路に追い詰められたような気分になる。
 
 リビングに着けば、既に久高くんがテーブルにお昼ご飯の準備をしていた。
 
 サバの味噌煮にきんぴらごぼう、それに私が大量に千切ったレタスも、適正な量に分けられてお洒落な和風サラダに変貌を遂げている。
 お椀によそわれた具沢山の豚汁からは、美味しそうな湯気を立っていて。
 ホッと安らぐ出汁の香りが胸に充満すると、和泉さんに感じた緊張も霧散していく。

「お!俺の好きなサバ味噌!」
「萌黄が好きだって言ってたから」
「はいはい、俺のためじゃないってことね。ご馳走様」
「い、いや……そういうわけじゃ……」

 単にサバの塩焼きか味噌煮のどっちが好きかと聞かれて答えただけなのですが……。
 ニヤリと笑いながらこちらを見る和泉さんの視線から逃れるように、私はスーッと目を泳がせた。
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