腹黒御曹司の一途な求婚
「で、二人はいつから付き合ってんの?」

 いただきます、と手を合わせて食べ始めた矢先に和泉さんがそんなことを訊ねてくるので、私は口に含んだ豚汁を噴き出しそうになった。

「え、いや、あの……」
「だからまだ付き合ってないって。今、口説いてるとこだから」
 
(なんでそんな赤裸々に暴露しちゃうの?!)

 愛想笑いがどんどん強張っていく。
 
「でも萌黄ちゃんの見解は違うかもしれないだろ?萌黄ちゃん的に蒼士はどう?」
「え、えーっと……」
「それは俺も聞きたいところだけど、萌黄が困ってるからやめといてあげて、幸人」

 どう答えようか内心焦っていたところへ、笑いを噛み殺した久高くんに助け船が出される。
 一旦は追及から逃れられたことに一安心をしたけれど、和泉さんはちょっと不服そうだ。サバの味噌煮を口に運びながら戯けた様子で口を尖らせている。

「性格はちょっとアレなところはあるけど、いい嫁になると思うんだけどなぁ」
「アレってなんだよ。ていうか嫁じゃないし」

 テーブルの上ではポンポンと軽口が飛び交う。
 いつもこんな調子なんだろう。小気味いい会話に笑いつつも、心の片隅では先程の久高くんの言葉が滞留していた。
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