腹黒御曹司の一途な求婚

突然の訪問者

「うーん、誓約書ねぇ……」

 食事を終え、話は今日の本題ともいえる私の相談事に移った。
 
 久高くんの淹れてくれたほうじ茶を飲みながら一通りざっと話すと、和泉さんは眉間に皺を寄せて腕を組み、悩むように天井を見上げた。

「完全に内容を無効にしたいと思ってるわけではないんです。ただ……親族はともかく、昔の知り合いとも今後一切関わらないっていうのが難しいな、と思って。実家の近くで働いてしまっている以上、久高くんだけじゃなくて、今後も知り合いに会わないとは限らないので……。あの……もし、誓約書の内容に反してしまっていた場合って、何か罰せられたりするんでしょうか……?」

 恐る恐る、そう訊ねる。
 和泉さんは真剣な面持ちで私をまっすぐ見据えて言った。
 
「内容を見ないと確実なことは言えないっていうのは大前提なんだけど。萌黄ちゃんの場合は、誓約書に反する行動をしたとしても問題にならないと俺は思う。もちろん、誓約書を遵守しなかったら、損害賠償請求をされるケースもあるにはあるけどね。あくまでそれは、その誓約書が有効であると判断された場合のみだよ。今回のケースは、内容も公序良俗に則してるとは言い難いし、そもそも未成年が親に強要されてサインをしたものだ。一部変更どころか、取り消しも十分可能だよ」
「そうなんですか……」

 私自身はともかく、久高くんに累が及ぶことは避けたかったので、問題ないと分かって私はホッと胸を撫で下ろした。
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